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第65話 これから謝りにいこう

「ん、言ったけど……で? その感じだと、セックスは出来ずに終わったのか?」 「えー、そうなの十夜? 何があったかくわしく話してよ~」  全く悪びれている様子のない男と、脳天気な男の声がどん底にいる俺の耳に響く。  俺は仕方なく、ポツポツと語っていった。  東のことと、セーラー服に着替えてもらったこと。  ものすごく泣かせてしまい、俺とそういうことをするのはキツい発言をされたこと。  全てを話終えると、どっと疲れた。  そうだ、俺は疲れたんだ。  優太さんと出会いはじめからやり直したい。 「ていうかそれ、十夜は優太くんがセーラー服になったからムラッときちゃったわけー?」  ケンの問いかけに俺は慌てて言い訳をした。 「東と1度もエロいことしてないって聞いて嬉しくなっちまって……まぁ正直、制服姿が似合ってて可愛かったっていうのも多少はあるけど、でもそれだけじゃなくて……」  後半はモゴモゴと呟いた。  自分の気持ちを言語化するのはとても難しいが、これだけは言えるので顔を上げた。 「それに俺、ちゃんと言ったぜ! 俺の胸に手を当てさせて、心臓がドキドキしてる意味が分かるかって! あれは俺なりに、優太さんに好きって気持ちを伝えたつもりで」 「わははは! 何それヤバい! TL漫画の読みすぎだって!」  盛大にケンに噴き出されて、新にはくすくすと笑われた俺は縮こまるしかなかった。  ひとしきり笑ったあと、ふたりは思いのほか落ち込みが激しい俺を見て申し訳なさそうに苦笑いをした。 「笑って悪かった。俺の考えを言ってもいいか?」  俺とケンは、新の方に視線を送る。 「適当に、セックスしてからの告白とかアドバイスして悪かった。その人が十夜をどう思ってんのかは正直分からない。けどその人のオナニーを手伝えてるんだったら可能性はゼロじゃない。もしかしたら、セーラー服でセックスするのは嫌だっただけなのかもしれない」 「えっ、な、何? オナニー手伝ったって何?!」  興味津々に食い付いているケンを無視して、新は真面目な表情で淡々と言う。 「とりあえず遠回しにしないで、今の気持ちをその人に話してみろよ。どうやらその人とも、十夜と同じく不器用で鈍感っぽいからな」  ようやく普通のアドバイスを貰えた俺は面食らって頷いた。  だがどうしたらいいのか分からない。完全に嫌われた俺の話を、優太さんは聞いてくれるのだろうか。  無言で考え込んでいると、今度はケンが真顔ですくっと立ち上がった。 「よしっ、十夜。今から行こうよ!」 「行くってどこにだよ」 「優太くんのところだよ。ほら、早く制服に着替えて」 「なんで制服?」 「年齢詐称の件も謝るんでしょー」  新も、「そうだな、嘘偽りない普段の姿を見てもらえよ」と同意して席を立った。  スタスタと玄関に向かうふたりの背中を見つめながら、俺は片手で頭をかかえる。  今からか……これから優太さんに会って何もかも暴露するのは勇気がいるが、この気持ちにケリを付けるのは早いほうがいいだろう。  よし、と腹を括った俺は、高校の制服に着替えてから家を出た。

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