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第68話 やってきたのはレコード店 side優太

 ーside優太ー  駅前のハンバーガーショップにいた時、十夜からのLINEが入った。  勝手に胸がドキッとする。  タップしようとしたが思い直し、トークルームを長押しして、既読を付けずに内容を確認した。 【話したいことがあるんだけど、これから会える?】  そのままアプリを閉じてスマホをテーブルに置き、窓から人波を見下ろしながら思いを馳せる。  今さら、俺と何の話がしたいというのだろう。  謝らなくちゃならないのはわかっているのに、弱い俺は出来れば会わずに逃げたかった。  だって、もし会って「優太さんとはもう、友達はやってられない」とか告げられようもんなら耐えられない。  だけど出会った頃のような、体の触れ合いが何もなかった頃に戻れるのかといえば、それは無い気がする。  十夜は俺を、次の恋人が出来るまでの繋ぎで利用したかったのだろう。  だったらもう俺は、十夜の為にできることは何もない。  辛いけれど、今は十夜とは会わない方がいいのかもしれない。だからこうして、LINEに気付いていないフリをするしかないのだ。  返信せずにいると、今度は電話が掛かってきたので萎縮する。  画面に表示された、成瀬十夜という名前を凝視しながら俺は唇をかんだ。  ごめん、なんて話せばいいのか分からないし、十夜に合わせる顔がないよ。  謝罪が通じたかのように電話は切られて、履歴に不在着信を知らせるマークがついた。  ため息を吐いて再び窓の向こうに目をやると、店の下からこっちに向かって手を振っている匠志くんに気が付いた。  俺は笑顔を作って手を振り返し、店を出る。  匠志くんの元へ行くと、両手を顔の前で合わせられた。 「ごめんね優太くん、呼び出しちゃって」 「ううん、もう授業も終わって暇だったから大丈夫だよ」 「優太くんが一緒に行けるなら良かったよ~。初めて行くところだから緊張してたんだ。誘ってみて良かった」  匠志くんとは最近、頻繁に会っている。  元々、匠志くんのファンだったし、趣味や波長も合うので楽しいのだが、今日は断ろうかと思っていた。だが近くのレコード店に一緒に行こうよと言われて、気分転換になるかなと思って誘いを受けた。  そのレコード店は不定休だが、今日はそこの店長がSNSを更新したため開いていると分かったらしい。歩きながら匠志くんが嬉しそうに話すのを聞いて、俺も自然と笑顔になった。  着いたのは雑居ビルの2階で、狭い階段を登った先にあった。  まるでカフェのような落ち着いた空間で、天井からは観葉植物がつり下がっており、ずらっと並ぶ木箱のような棚にはぎっしりとレコードが詰め込まれていた。レコードの他にも、古着や雑貨、アート作品など、いろいろなものが置いてあるみたいだ。  匠志くんはレコードを1枚ずつ引っ張っていく。ジャンル別に並んでいるらしいが、ジャンル問わず隅から隅までをじっくり見て、お気に入りの1枚を探そうとしているみたいだ。  今はパソコンやスマホがあれば気軽に音楽は手に入るけど、店舗で実際に音楽を探して出会うのも醍醐味だ。嬉しそうな匠志くんを見ると、俺も嬉しくなる。  自分も何気なくレコードの表紙を見ていく。だが頭の中ではまったく違うことを考えていた。フルフルと頭を振って、また手を動かしてみても同じだった。

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