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第70話 十夜の本音を聞き出したい
「きっかけはすっげー些細なことだよ。曲作りの最中に、こっちがいいとかそれはダメだとか、みんないいものを作りたいから妥協したくないあまりに、いつの間にか言い争いになっちゃって。『そういえばあの時もお前はこうだった』とか過去の話を掘り返して、収拾つかなくなった。決着つかないまま帰ったんだけど、すげーモヤモヤした。こんなことで俺たちは簡単に終わるのかよって」
解散の危機をメンバーみんなで乗り越えられたからこその余裕の笑みで、匠志くんは続ける。
「で、結局そのまま2、3日連絡取らないままだったけど、ヒロが声掛けして、頭下げて言ったんだ。実は最近、他のバンドの奴らにバカにされて腹が立って、見返してやりたいと思ってたんだって。上手くいかない不甲斐なさから、ついキツく言いすぎたって」
「そうだったんだ」
「そしたら他の奴らも──もちろん俺も、本音をポツポツ吐き出していった。ビックリしたよ、みんなそんなこと考えてたのかって。言わなくても分かるだなんて嘘で、人って、言わないと何考えてるのかなんて分かんないなって思ったよ」
いつの間にか駅前に戻ってきていた。
足を止めて匠志くんを見上げると、思いがけないことを言われる。
「優太くんは、友達の意見にどうして納得がいかなかったのかを伝えてないんじゃない? 相手もきっと、どうして怒ってしまったのかを話してないような気がする」
その通りで、目からウロコが落ちたようになる。
怒りというのは第二感情だと聞いたことがある。
怒って当然と思える出来事に対し、実は怒りよりも先に生じている感情があるのだと。それは大抵、悲しみや寂しさ、困惑などだ。
あの時の十夜の第1感情はなんだったのか。
考えたところで分からない、俺は十夜じゃないから。
十夜の口から本音を聞き出したい。
「ありがとう……ちょっと、元気出た」
俺は丸眼鏡の奥の優しい目を見つめる。
出口のないトンネルを延々とさ迷っていたところに光が射し込んだ気がした。
いいじゃないか。好きだと伝えて嫌われたとしても、この想いに嘘はない。
──十夜が好きだから、俺はあの時切なくなって泣いたのだし、セフレにはなれないのだとはっきり言えばいいんだ。何を迷っていたのだろう。
「あ、いつもの優太くんに戻った」
「うん、匠志くんに話せて良かった。まだ返してないんだけど、ちょうどその人からLINE来てたんだ。話したいことがあるから会おうって」
「えっそうだったの? ほらやっぱり。相手も優太くんと早く仲直りしたいに決まってるよ、きっと」
「そうかな……」
ポケットからスマホを取り出して、アプリを起動させようとした時だった。
ハンバーガーショップが入っている駅前の3階建てのビルに視線がいった。
2階の窓際に、男子高校生が3人座っているのが見えた。
黒髪の男と、茶髪の男。そして3人の中で1番明るい髪色の男、あれは──
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