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第78話 もう1度初めから
「俺は十夜と、仲直りしたい。ていうかもう1度初めから、やり直してほしいんだ」
目と目が合ってもすぐに逸らされるが、俺は十夜の喉仏らへんに目線を落としながら一気に言い放った。
「十夜が年齢とか色々と嘘を吐いていたのはムカついたし腹が立ったけど、それ以上に十夜と気まずいままでいるのは嫌だなと思ったんだ。それで考えたんだ。今度は嘘の姿じゃなくて、高校生の十夜と改めて友達になって、いろいろと知っていきたいって……老け顔とか言っちゃって、ほんとごめん」
傷付ける言葉を浴びせてしまったことを取ってつけたように謝っても、十夜は特に反応しない。
俺はどうしようとオロオロするが、もうこのまま勢いで言ってしまおうと腹を括った。
「俺、十夜とこのまま会わなくなっちゃうのは嫌なんだよ! だから改めて言うよ! どうか俺と、友達になってください!」
勢いよく腕をぶんっと振って手を差し出そうとしたら、その腕が本棚に思い切りぶつかってしまった。
痛みと格闘しているうちに、棚の上に天井近くまで積み上がっていた本のタワーはゆらりと揺れて崩壊し、俺を目掛けてバサバサと落ちてくる。
「わーーーっ!」
咄嗟に頭を手で守ってしゃがみこむと、十夜がすかさず俺の体に覆いかぶさってきた。
十夜の背中に容赦なく分厚い古書が落ちてくる。
大きな音を立てて床に落ちた数冊の本はよりにもよってハードカバーで、1冊だけでも重量がありそうなものだった。
「十夜っ、大丈夫?!」
十夜の胸の中に顔が埋まっていた俺は慌てて見上げるが、俺の肩口に額を付けて俯いている十夜の反応がない。
古書は十夜の背中を直撃した。
たぶん、じゃなくて絶対、痛かったはずだ。
俺が気を付けていたら本は落ちてこなかったのにという後悔と、十夜が反射的に俺を守ってくれたことが、まだ友達になれる望みがある気がしてあまりにも嬉しくて、涙が滲んだ。
俺は泣き出さないように唇を強く噛み締めながら、十夜の背中に手を回して撫でさすった。
ごめんとありがとうの意味を込めて。
「守ってくれてありがとう。十夜、俺、隠してたけど……十夜のことが好きだよ」
顔を見られていないからか、あれほど言い渋っていた2文字を言うことができた。だけど顔と首が熱を持つ。
恥ずかしくて仕方ないけど、十夜がまだ動かないのをいいことに、俺はポツポツと言葉を紡いでいった。
「だから十夜と、セフレみたくなっちゃうのは嫌だと思ってこの間エッチできなかったんだ。十夜にも俺を好きになってほしいって高望みしちゃったから……これからエッチなことはできないけど、これからは高校生の十夜とたくさん仲良くしたい。好きだっていう気持ちは簡単には消えないかもしれないけど、十夜を困らせることはしないから」
外を走る車の音がやけに鮮明に聞こえる。
しばらく沈黙が続いたあと、十夜はようやく顔を上げて俺を見た。痛みに耐えるような顔をしていた。
「優太さんは、俺とこのままずっと友達でいられると思ってんの?」
まだ先のことは分からない。例えば十夜に彼女ができたとしたら俺はきっとショックを受けると思うけど、それよりも会えなくなることが1番いやだ。
俺は頷いた。
「ん……努力、する……」
「俺は、優太さんと友達やんのはやだ」
その瞳の奥が揺れていて、胸がギュッと痛くなる。
あぁ、そっか。本当にもう十夜とはお別れなんだな。
そう思った時、唇を塞がれた。
突然のことで目を閉じるのも忘れてしまう。
濡れた舌で口腔をかき混ぜられたあと
「彼女じゃなくて、彼氏でいい?」
十夜ははぁっと一息吐いた。
「俺も、優太さんのことが好きだよ」
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