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第79話 好きの気持ちは何度でも

 ボーッと見つめ返す俺を十夜は抱きしめながら起こして、そこにあるカウンターのテーブルに座らせた。  両足が浮いて、十夜と目線が同じ高さになって、距離がより近くなる。  握りしめていた手を開かされて、中にあったブレスレットを十夜は自らの腕に嵌めた。  鳩が豆鉄砲をくらったような顔でいると、ふっと吹き出された。 「何だその顔。意外だって顔だな。もう、とっくにバレてんのかと思ってた、俺の気持ち」 「……え? 十夜が、俺のことを好きって?」 「普通分かんだろ。俺、何回優太さんにキスしたよ?」  言われるがまま、頭で数えようとしてしまうけど結局分からなかった。  それよりも早く、頬を両手で掴まれてまた唇を塞がれる。  肌の質感や弾力を直に感じると、何か熱いものが身体中をかけめぐる。  顔が離れていったタイミングで、俺はすかさず訊いた。   「だ、だって俺のこと、友達だなんて1回も思ったこと無いって」 「無いよ。初めて会った時から、優太さんを特別な目で見てた」 「……へ?」  素っ頓狂な声を出して固まってしまった。  つまりはあれか。友達以上の感覚でいたから、俺にそんな風に言ったというわけで……。  安心したら涙が溢れてしまった。  なんだ、そうだったのか。  やめてよ、変な言い方して。俺がどれだけ悩んだと思ってるんだ。  文句を言いながら十夜の肩をポカポカ叩くと、困ったように笑いながら謝られた。 「悪かったよ、誤解させるような言い方して」 「ホントだよっ、俺、本当にショックだったんだから」 「馬鹿だなぁ優太さんは。能天気で鈍感だし」 「馬鹿とはなんだよ、ていうか俺の方が年上なんだから敬語使いなよ」 「今更かよ。ていうか、優太さんはいいの? こんな老け顔の高校生なんか好きになっちゃって」 「十夜こそ、俺なんかでいいの? 俺、男だけど」 「いいに決まってんだろ。俺は性別とか年齢とか関係なく、優太さんを好きになったんだよ」  瞳を真っ直ぐに見つめながら即答されて、十夜はもう嘘は吐いていないのだと安心する。  俺は何度か降ってくる十夜のキスを受け止めた。俺の泣き濡れた瞳にもやさしく唇が触れてくる。  触れる度に、かあっと全身の熱が上昇していった。さっきから体の奥がジンジンしている。   顔を離すと、十夜はちょっと不貞腐れたような顔になった。 「優太さんは、あの丸メガネのことが好きなんだと思ってた」 「丸メガネって……もしかして匠志くんのこと?」 「髪染めてもらって、あの日だって2人でいたし……本当は、俺が染めてやりたかったのに」  俺の髪を指でそっと梳きながら十夜は唇を尖らせる。  嫉妬してくれていることに、恥ずかしさと嬉しさの感情が同時にやって来る。  俺も同じように、十夜の頭を撫でるように手を添えた。  頭の形がよくてサラサラで。間近で頬を赤く染めているこの人を見ると、ほんとうに愛しいなぁと感じる。 「匠志くんのことは好きだけど、十夜とは全然、好きの意味が違うよ」 「……ふぅん。俺は特別?」 「うん。ていうか俺も……初めて会った時から十夜のことが好きだったんだ」  あんなに躊躇していた告白も、1度勇気を出して形にしてしまえば簡単に口から零れてくれた。  十夜が好きだと、大切なのだと俺は何度でも伝えられる。  今だけではなくて、これからも。

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