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第83話 俺の名前を呼ばないで

「つーか許可なく写真撮って勝手にネットにアップって、普通に犯罪だろ。後で犯人見つけ出してシメてやる」  外はもう陽が落ちて暗くなっていた。  ブツブツと文句を言う十夜の横で、俺は暖かい気持ちになりながらゆったりと歩く。  十夜はずっと、俺のちいさな手を離さない。  人がいてもいなくても、帰り道はだいたいこうして手を繋いでくれる。 「けど、誰かが十夜の写真をアップしたおかげで、野中さんを見つけることができたからね。きっとあの人、ずっと探してたんだよ」  たしか元カレさんは大学の先輩だと聞いた。  今頃、野中さんはその彼に本音をぶつけられているだろうか。  悲しみと憎しみと謝罪と、とびきり甘い愛情も。  コンビニで飲み物やデザートを買って、俺のアパートでのんびりとする。  十夜がバイトに入っている日は、そのまま俺の家にくることが日課になっていた。 「そういやケン、あんなに好き好き言ってた彼女と別れたんだってよ」 「えぇー、早くない? 付き合ったのって夏だよね?」 「あいつ熱しやすく冷めやすいタイプなんだよな。新は『この学校の女子のレベルは低くて眼中に無い』とか言って上から目線だしよ」  十夜の親友のケンこと賢人くんと、新くん。俺と十夜のことを祝福してくれた。  2人は相変わらず俺に敬語を使わないけど、今では4人で遊ぶ仲になっている。  高校生と遊ぶ大学生──しかも4人の中でなぜか1番幼く見える俺──は、はたから見たら変な関係なのかもしれないけど、あまりいい思い出がなかった高校時代をもう1度やり直しているみたいで嬉しいし、彼らといるとすごく楽しい。 「優太さんの周りにいないの? 新に釣り合いそうな女子大生」 「あ、バイト先に彼氏募集中の子がひとりいるよ」 「今度紹介してやりなよ」 「えぇ、やだよ、絶対ムリって言うよ新くん」  そんなことないって、と十夜はソファーに座る俺の肘を隣から小突いた。  ふふ、と俺も笑みをこぼすと、ふと時の流れが止まったかのように十夜が急に動きを止めて見つめてきた。  俺もビー玉のような透き通った瞳の奥を見つめかえすと、顔が近づいてきてキスをされた。目を閉じて、その快感に酔いしれる。  顔を離して、おでこを当て合う。  艶めいた唇と上気した肌。  足を動かすと、ソファーの生地に衣類が擦れて音がする。 「……優太」  熱っぽく名前を呼ばれただけで心臓がバクバクと早鐘を打ち、全身が強ばってしまう。  指の間にしっかりと指を入れられて、手を繋がれる。お揃いのブレスレットが触れ合った。  十夜はクスクスと笑う。 「優太さん、体ガチガチだから」 「そっ、そんなことないよっ」 「嘘つけ。痛くはしないからそんなに緊張すんなよ」  これまでキスは数え切れないほどした。  そのまま俺が手淫を受けて達してしまうという事案も、恥ずかしいが何回かはあった。  だが肝心のセックスはまだ1度もしていないのだった。俺の体が石みたいに硬直してしまうから。  十夜が、優しく名前を呼ぶのが悪いんだ。  呼び捨てにしたらエッチがしたいという合図だから。

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