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第5話 満腹な狼/料理する狩人
バーベキューって初めてやったけど、聞いていたのよりずっとすごかった!
肉を棒に刺して火の上でグルグル回して焼くのなんて、口を開けて見ていたからヨダレが出まくって大変だった。網の上でジュージュー焼いた肉もすっげぇうまかったし、あんまり好きじゃない野菜もうまい肉と一緒だったからか、めちゃくちゃ食べた。
オレが市場で見つけた葉っぱは“ハーブ”とかいうやつで、明日食べる肉に使うよってミチカが喜んでくれた。……なんかさ、そのとき「ありがとう」って笑ったミチカが、大兄ちゃんみたいにきれいに見えてドキッとしたんだよな。
そうだ、焼きリンゴっていうのも、すっげぇうまかった! ミチカが「熟したリンゴだから、ちょっと酸っぱいのを足すとおいしいよ」って言って、レモンといい匂いがする液体を少しかけてくれたんだけど、きっとそれがよかったんだな。すっげぇうまかったし、食べているうちに何だか楽しくなってきて、ちょっとだけワクワクもしてきた。
何か食べてワクワクするなんて初めてだ。なんだろうなぁって思っていたけど、これはあれだ。ミチカの部屋に初めて入ったときの、しゅわしゅわのリンゴを飲んだあとに似ているんだ。
バーベキューでお腹いっぱい食べたオレは、ご機嫌のまま部屋でしゅわしゅわの水を飲んでいる。ミチカは簡単に庭の片付けをしたあと、明日の準備だとか言って台所で何かしていた。
「シュウ、寝る前に簡単にお風呂入っちゃおうか」
作業が終わったのか、手を拭きながらミチカがそんなことを言った。
「ぅえ? ふろ?」
「そう、石鹸で体とか髪の毛とか洗うんだよ。シュウの場合は耳と尻尾も洗わないとね」
「オレ、昨日川で洗ったぞ?」
「あー、やっぱり普通の狼はそうなのか」
うん? 人って違うのか?
風呂って言えば、森の少し先にあるきれいな川で洗うのが普通だ。真冬は寒いからあんまり洗わないけど、暖かくなったいまはみんな川でザブザブ洗う。
オレは昨日洗ったから、今日は洗わなくても大丈夫だ。なのにミチカが「おいで」って手を引くから、おとなしくついていくことにした。そうして裏の扉から出たら、見たいことがないものがあった。
「……なんだ、これ」
「ほら、この中に入ってお湯で体を洗うんだ。シュウは初めてだろうから、僕が洗ってあげる」
前はただの裏庭だったのに、いつの間にか壁に囲まれた狭い部屋みたいなものができていた。これが、人の風呂ってやつなのか……?
「いや、オレ大人だから一人で洗えるし」
「お湯で洗うのは初めてだろう? それに石鹸も何種類かあるんだ。大丈夫、人にはおもてなしっていうのがあってね、こうしてお手伝いするのは普通だから」
おもてなしって何だろう? でも、それが普通だって言うなら、まぁいいか。オレは狼だけどミチカは人だし、ここはミチカの家だから人と同じことをすることにしよう。
「わかった、一緒に洗う」
「うん、じゃあ服を脱いで」
ミチカが入り口を入ったところで服を脱ぎ始めた。やっぱりここが人の風呂ってやつらしい。いつも広い川で洗っているから、なんだか狭いところで服を脱ぐのは変な気分だ。
狭いのはあんまり好きじゃないんだけどなぁ、なんて思いながら帽子を取る。上着を脱ぎながら、上半身裸になったミチカを見た。
(……大兄ちゃんほどじゃないけど、ミチカもけっこうムキムキだな)
狩人ってくらいだから、力も強いのかもしれない。ズボンと下着を脱ぎながらミチカの裸をチラチラ見る。
お腹もムキムキだけど、腕も太もももけっこうムキムキに見えた。お尻も大兄ちゃんみたいな感じだし、チラッと見えたアレも大兄ちゃんくらい大きい。
……なんだろう、ちょっとドキドキしてきた。服を着ているときは強そうに見えなかったのに、脱ぐとムキムキなんてちょっとずるい。
(……オレ狼なのに、ミチカより弱く見える……)
すっぽんぽんになったオレはいつもよりチビに見えるし、ムキムキとは全然違うヒョロヒョロだ。いっつもナツヤたちに「棒切れみたいじゃん」って笑われていたのを思い出した。それに兄貴たちにも「兄弟とは思えない」って言われていたんだよな……。
(……なんか、恥ずかしくなってきた)
こんな弱っちぃ体、ミチカに見られるのは狼として恥ずかしい。みんなに言われてきたことを思い出したら、急にそんなふうに思えてきた。
「おいで、シュウ」
「あの、オレ、」
ダメだ、やっぱりミチカに見られたくない。脱いだ服で体を隠そうとしたら、ミチカに服を取られてしまった。
「うわ、想像してたより白くてきれいだ」
「……きれい?」
「うん。それにすごくかわいい」
「……かわいいって、」
「あ、そっか、狼だと褒め言葉じゃないんだっけ。でも僕にはすごくかわいく見えるし、きれいだよ?」
小さい子には「かわいい」って言うけど、大人には言ったりしない。「かわいい」って言われなくなることが強い狼の証拠だって思っていたんだけど、……なんでだろ、ミチカに言われても嫌な感じはしなかった。
それに「きれい」って……。大兄ちゃんがつがいによく言うけど、それは大兄ちゃんのつがいもムキムキで強いからだ。でもオレはムキムキじゃないし、みんなよりチビで強くないことはオレが一番よくわかっている。
頑丈な体で強い奴は、みんなから「きれい」って言われる。一番言うのはつがいで、だから大兄ちゃんもつがいには「きれいだ」っていっつも言っていた。
でも、死んだ母さんは細くて少し小さかったから、親父に「きれい」って言われるのを見たことがなかった。
兄貴たちは親父に似たけどオレは母さんそっくりで、だから体も小さいんだと思っている。オレは母さんが大好きだから母さんに似ているのは嫌じゃないけど、でもやっぱりチビって言われるのは腹が立ってしょうがなかった。
そんなオレのことをミチカは「きれい」って言ってくれる。……「きれい」なんて、生まれて初めて言われた。
ブワワッ。
急に体が熱くなった。
「ほら、裸のままだとさすがに風邪をひいちゃいそうだから、早くお湯を浴びよう」
「おいで」って手を出されて、オレはドキマギしながらその手を取った。
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
思ったとおりシュウの体は華奢で小さくて、肌は日焼けしにくいのか白くて艶々でとてもおいしそうだった。それに大事なところが無毛だなんて、狼ってみんなそうなんだろうか。思わず瞬きも忘れてソコを見つめてしまったんだけど、シュウには気づかれなかったようでホッとした。
「あー、なんだかますます犯罪っぽくなってきたな」
「ミチカ?」
思わずつぶやいてしまった言葉が聞こえたのか、シュウがきょとんとした顔で見上げてきた。
「何でもないよ」
少し狭い洗い場だからと適当なことを言って、僕の足の間にシュウを座らせて背後から体を洗ってあげている。この状況が変だと思わないのは、シュウが狼だからだろう。
髪の毛は花の匂いがする液体石鹸で洗ってあげた。もちろん耳も丁寧に洗ってあげたし、耳の中は洗う用に買ってきた柔らかいタオルで拭ってもあげた。
耳の中はくすぐったいみたいで、優しく触れるたびに肩を震わせてピクピクしていたのがたまらなくかわいかった。思わず耳の先をパクッと食べたくなったくらいだ。
(さすがにまだやらないけどね)
髪の毛と耳のつぎは体だ。全体を蜂蜜の匂いがする石鹸で泡まみれにしてから、細い手足を僕の手で丁寧に洗ってあげる。もちろん指の間も優しく洗ったし、いまは太ももの内側を撫でるように洗っているところだ。
「……っ、ん、」
あぁ、なんてかわいい声だろう。くすぐったいだけなんだろうけど、それを僕に悟られたくなくて必死に我慢している声は、ちょっとした喘ぎ声に聞こえなくもない。
そう思ったら、ついギリギリのところを指で撫でてしまっていた。そうするとビクッと震えて、僕の太ももに当たっている尻尾がビンと反応するのがかわいくてたまらない。
「さぁ、尻尾も洗おうか」
「ふぇ……?」
「はい、少しだけ前にお尻ずらしてね」
「おしり……」
あれ? 口調がぼんやりしている。まるで……そう、まるでお酒に酔っているみたいな感じだ。
シュウがお酒に弱いことは初日のシードルでわかっていたから、焼きリンゴにはほんの少し、匂い付け程度にしかお酒は使わなかった。それでも酔ってしまったのかもしれない。
もしくは少しのぼせたか。狼は滅多なことでは体をお湯で洗わないって知っているものの、そのあたりの加減はよくわからない。たどたどしい口調はかわいいけれど、もしのぼせたのだとしたら気をつけなければ。でないと、このあとのお楽しみが台無しになってしまう。
「しっぽと、おしり……」
ぼんやりした声がかわいいなぁなんて思っていたら、シュウのお尻がぴょこっと目の前に現れて驚いた。
(ええと、これは四つん這いでお尻を上げてる状態では……?)
たしかに尻尾は洗いやすいとは思うけれど、これだと違う場所も見えてしまう。むしろソコを洗いたくなるというか、いじりたくなるというか……。
「あー、いや、とにかく先に尻尾を洗ってしまおう」
目の前にある、しっとり濡れて少し重たくなった尻尾に石鹸の泡を塗りつける。それから手のひらで優しく擦って、指で梳くようにして……って、お尻をふるふるさせないでほしいんだけどな。耳と同じようにくすぐったいだけかもしれないけれど、これだと誘われているようにしか見えない。
それに大事なところは全部無毛らしく、小さな袋がキュッキュッと動いているのも、かわいい穴がヒクヒクしているのもよく見えた。
(ここ、舐めたら驚くかな……っと、大変だ。僕の息子さんが大きくなってきた)
あんまり役には立たないけれど、洗う用のタオルをそっと股間に被せておく。
「もう少し我慢してね。あとは付け根を洗って……」
尾てい骨あたりにある尻尾の付け根を擦ったら、「ひゃぅ!」って甘い声が聞こえて驚いた。まだそういうことはしていないよな? ……って、そっか。尻尾の付け根は敏感なんだっけ。
「……あー、ちょっとだけ、ね」
今度は意図して付け根を少し強く押してみた。思ったとおりシュウの華奢な腰がヒクンと跳ねて、かわいいお尻がフルッと震える。逆にあわあわの尻尾はピンと伸びて、濡れているのに毛が逆立っているように見えた。
(うわぁ、かわいいなぁ……)
すごくかわいいし、それにとんでもなくエロい。よくよく股の間を見れば、かわいいモノが健気に勃っている。これはもう、そういう準備をしてもいいってことに違いない。
「シュウ、大事なところも洗おうね」
「だいじ……?」
声は相変わらずぼんやりしたままだ。これなら案外抵抗なくいけるんじゃないかな、そう思ったら口が緩みそうになった。僕にとってはうれしい限りだけれど、本当にシュウは警戒心がなさすぎて心配になる。
そんなことを思いながら、ヒクヒクしているかわいい穴の周りを、泡をたっぷりつけた指で撫でるようにこすった。
「ひゃっ!?」
「大丈夫、大事なところだから優しく洗ってあげる」
シュウが驚いた声を上げたのは最初だけで、その後は洗ってもらってるんだからと必死に声を我慢しているようだった。洗っているのは本当だし、フルフル震えているお尻とか尻尾とかがあまりにかわいくて、俄然やる気が出てくる。
「中もきれいにしておこうか」
「な、なか……? ……ぅえ!?」
「大丈夫大丈夫、怖くも痛くもないから」
「ふぇ、ぇ、……っ!」
中を洗う用の石鹸は人用のものだけど、狼だって人型になれば人と同じような作りだろうから大丈夫だろう。
(まぁ、大きさ的には随分小さいんだけど……)
さて、どこまで入るかな、なんて思いながらゆっくりと指を入れる。シュウは中も小さいだろうから、あまり奥まで指を入れないように気をつけて……。ははっ、足までプルプルしてきた。痛そうにはしていないから、単に驚いているだけかな。それとも……。
「ひゃう!?」
「なるほど、狼もココは感じるのか」
「な、なに、」
「シュウ、ここ痛い?」
「痛くは、ないけど、なんかピリピリして、へん、」
さすがに最初からは無理か。まぁ、これから教えていくっていうのも楽しそうではあるかな。
「ミチカ、そこ、へんだから、いじんないで、」
「でも大事なところだから、ちゃんと洗っておかないと」
「……でも、」
振り返ったシュウの顔は真っ赤で、緑の目なんてウルウルさせてとんでもなくかわいかった。耳がペタッとしているのは、きっと困っているからだろう。
中をいじられるのは変だからやめてほしいのに、強く言えない。それだけ僕のことを信頼してくれているってことだ。
罪悪感みたいなものがチラッと顔を覗かせたけれど、僕はもう決めたんだ。
(かわいくておいしそうなシュウを、僕が大切に食べるんだってね)
初めてこんな気持ちになった。
ただただシュウがかわいい。かわいくて仕方がないし、シュウが望むなら面倒くさい狩人の仕事もまたマジメにやってもいい。食べることが大好きなシュウのために、本格的に料理の腕を磨くのも捨てがたいなぁ、なんてことまで思い始めている。
いつの間にこんな気持ちになっていたんだろう。自分の気持ちの変化に我ながら驚いた。
(素直で元気でかわいいシュウを毎日のように見てたら、こうなっちゃったんだよなぁ)
だから、僕においしく食べられてほしいと真剣に思っているんだ。
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