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第7話 つがいを決意した狼/待ち遠しい狩人

 目が覚めたらミチカの家で、大きいベッドに寝っ転がっていた。 (あれぇ……? オレ、どうしたんだっけ……?)  昨日はミチカの家に泊まることになって、庭でバーベキューをした。最後に焼きリンゴを食べて、それから……そうだ、お湯で体を洗ったんだ。  甘い匂いの石鹸でミチカがあちこち洗ってくれて、オレは段々頭がぼんやりしてきて……。 (……すっげぇ優しく洗ってもらった……)  耳も尻尾もミチカが洗ってくれた。まるでつがいにするみたいに優しく洗ってくれるから、それでオレ、なんかドキドキしてきたんだ。 「お尻、」  そうだ、それからお尻とか、お尻の中とかも洗ってもらった。頭はずっとぼんやりしていたけど、洗ってもらっているうちにどんどんドキドキしてきたのは覚えている。  それから裸のままベッドに寝転がって、そうしたらミチカにおいしそうだって言われた。それに甘い匂いがするって言われて、庭のリンゴのことを思い出したんだ。  あのリンゴと同じくらいオレはおいしそうに見えるんだって思ったら、ミチカが食べたくなるのもわかるなって思った。だから「食べていいよ」ってオレが言って……。 「……お尻の中が、びちゃびちゃになった」  はっきりわからなかったけど、あれってミチカの……。 「お尻、もしかして痛い?」 「ぅひゃっ!?」  びびび、びっくりした……! 飛び上がったら、台所にいたミチカがこっちを見ていた。 「切れてはないし、ちゃんと掻き出しておいたから大丈夫だと思ったんだけど、痛い? 薬、塗っておく?」 「い、痛くないし! 平気だし!」 「そう? 痛かったら遠慮しないで言うんだよ。一応、腹痛用の飲み薬も用意してあるからね」  ミチカに言われたからか、急にお尻がムズムズしてきた。何回も中を指で触られたことまで思い出して、お尻の穴も中も変な感じになってくる。 (でも、なんでミチカはお尻の中とか触ったんだろ……)  風呂でも大事なところだからって洗われたし、そのあとは「おいしそう」とか「かわいい」とか言いながら、中のほうまでいっぱい触られた。  そんなところを触られるのは初めてでびっくりした。でも、そのうちジンジンじくじくしてきて、ムズムズして、もっと擦ってほしくなった。そう思っていたら、ミチカが中にリンゴの匂いがするヌルヌルをたくさん塗って、それから指でくちゅくちゅして……って、あれってもしかして……。 (前にナツヤたちが話してた、つがいがすることなんじゃ……) 「……っ!!」  そう思ったら顔がボワッて熱くなった。 「シュウ、本当に大丈夫? やっぱり薬、塗っておこうか?」  台所から出てきたミチカがベッドに近づいてくる。昨日のことを思い出したオレは、急に恥ずかしくなってきて大慌てで首を横に振った。 「へ、平気だって言ってんじゃん!」 「それならいいけど……。あ、来たかな」  ミチカが小さいテーブルの向こう側にある表の入り口を見た。そうしたらトントンって音がして、扉が開いた。そこに立っていたのは……。 「え……? 大兄ちゃん……?」  オレが尊敬する大兄ちゃんがいた。 (なんで大兄ちゃんがミチカの家に……?)  あ、そうか、大兄ちゃんとミチカは友達だったっけ。ってことは、オレみたいに遊びに来たってことか? 「……まさかと思っていたが、本当にシュウがいるな」  扉を閉めて中に入ってきた大兄ちゃんは、なんだかちょびっと怖い顔をしている。 「ちゃんと書いておいたよね」 「手紙は読んだ。読んだが、まさかって思うだろ?」 「それをきみが言う? それなら僕だって、まさかナナヤをって驚いたよ?」 「……ッ、うるさい。ナナヤは狼の中にいてもおかしくないくらい立派な肉体を持つ強い男だ。俺のつがいに相応しい男だ」 「あー、はいはい、それはもう聞き飽きた。まったく、きみもナナヤも同じことばかり言うよな」 「つがいだから当然だ」  ミチカが「はいはい」って呆れた顔をしている。 (……っていうか、ナナヤって大兄ちゃんのつがいの名前だよな?)  なんでミチカが知っているんだ? もしかしてミチカは大兄ちゃんのつがいとも友達なのか? 「で、本気でシュウとつがうつもりなのか?」 (ぅえ!? なに、つがうって何!?)  大兄ちゃんの言葉にびっくりした。だってオレは大人になったばっかりだし、つがいなんてもっとずっと後の話だって思っていたからだ。 「そうだよ。昨日、僕の気持ちはシュウに伝えたし、シュウもつがうって返事をくれた」 (えぇ!? オレ、そんなこと言った!?)  …………あ、うん、言った、……気がする。  体が熱くて頭もボーッとしていたけど、何かを言われて、それがうれしくて「つがいになる」って返事をしたんだ。 (……そうだ。ミチカに「好き」って言われた) 「好き」って言われたことがうれしくて、言われた瞬間、体中から何かがジュワーッて出てきたような気がした。言われたことがうれしくて、だから「つがいになる」って返事をしたんだ。  誰かに「好き」なんて言われたのは初めてだ。チビでビビリだって笑われてばかりのオレに、好きなんて言う仲間は一人もいない。バカにする奴らはたくさんいたけど、ミチカはそんなオレに「かわいい」って、「好き」だって言ってくれた。 「おまえがシュウのつがいになるなんてな。シュウは見てのとおり、群れの中でもとくに体が小さい。それに狩りも満足にできないし、おそらく筋肉もつきにくい。シュウの母親がそういう狼だった」 「僕には関係ないよ。シュウは小さくてかわいいし、狩りが必要だって言うなら狩人の僕がやればいい。それに母親が作った帽子をずっと大事にしているような優しい子だよ、シュウは」  ……ミチカはやっぱりオレのことを、母さんの帽子のことをわかってくれている。それがうれしくて、ちょびっとだけ涙が出そうになった。……大兄ちゃんがいるから、絶対に泣かないけどな! 「そういや、おまえたち人の好みは俺たちとは違ったな。だからナナヤを誰にも奪われなくて済んだわけか」 「ナナヤの子どもを生みたがってた女性はたくさんいたけど、逆はいなかったね」 「……チッ」 「舌打ちするなよ。おかげでナナヤは未通のままだったんだから、いいじゃないか」  大兄ちゃんが舌打ちするところなんて、初めて見た……。  つーか、本当に大兄ちゃんとミチカって友達だったんだな。それに、昔からの友達みたいに見える。大兄ちゃんもほかの奴らといるときよりも大人っぽくないっていうか、怖くないっていうか、普通っぽい感じがした。 「シュウ」 「は、はいっ」  大兄ちゃんに名前を呼ばれて、耳と尻尾がビン! って立った。ベッドに座ったまま動けなくなる。  うぅー、緊張する……。尊敬する大兄ちゃんだけどオレにとっては雲の上の存在って感じで、名前を呼ばれるだけで体がカチコチになってしまう。 「おまえは本当にミチカとつがいになってもいいのか?」 「ぅえ……?」 「……というか、すでにミチカの匂いがついてるぞ」  大兄ちゃんが変な顔をしながらクンクン匂いを嗅ぎ出した。ミチカの匂いって、オレにミチカの匂いがついているってことか? もしかして、お尻がびちゃびちゃになったから?  思い出してお尻をちょびっと動かしたら、ミチカが「だろうね」って答えた。 「でも、挿れてはないから心配しないで」 「当たり前だ! おまえ、シュウの体見てわかるだろ! おまえみたいなデカい奴のを突っ込んでみろ、ぶっ壊れるだろうが!」  急に大兄ちゃんが叫んだからびっくりした。オレはびっくりしたせいで耳がピン! ってなっているのに、ミチカは「うるさいなぁ」って言いながら平気な顔をしている。大兄ちゃんが相手なのに平気なんて、やっぱりミチカはすごい。 「やだな、僕のはそこまで大きくないよ? せいぜい人の平均のちょっと上くらいだって」 「体格の話だ! ったく、きれいなツラしてとんでもない奴だな。これで王――」 「ハルキ、余計なことは言わないほうが身のためだよ」  なんだろ、大兄ちゃんがグッて感じで口を閉じた。そんな大兄ちゃんを、ミチカはちょびっとだけ笑った顔で見ている。……あれ、いつものミチカと違うような……何だか、ほんの少し怖い感じがした。 「……その目で睨むな、うすら寒くなる。とにかく、つがうにしても一旦、群れに帰したほうがいい。シュウにも親兄弟がいる」 「わかってる。だからきみを呼んだんだ」 「……はぁ。昔からおまえのことはいけ好かないヤツだと思っていたんだ。笑顔を振りまいて無害な顔をしながら、腹の中は真っ黒だ」 「僕だってきみのこと、うんざりしたなぁ。あはは、懐かしいね」 「笑うな。ナナヤのことがなければ、本気で関わり合いたくないんだ」 「まぁまぁ。あ、そうだ、これ持って帰って。ナナヤお気に入りの石鹸に香油、それから王国特製のリンゴの潤滑剤。また改良して媚薬効果が飛躍的に上がったらしいよ。人同士でも割とすぐに効果が出るらしいし結構ぶっ飛ぶみたいだから、狼相手だと即落ちってやつじゃないかな」  そんなことを言いながら、ミチカがきれいな色の瓶を大兄ちゃんに渡している。 (……あ、)  あの瓶は、昨日オレのお尻の中に塗ったヌルヌルが入っていた瓶だ。見たことがないくらいきれいな瓶だったから覚えていた。  受け取った瓶を、大兄ちゃんがすごい目で見ている。それから「一瓶じゃ足りない」って言って……笑ったミチカが、もう一個きれいな瓶を棚から出した。 「とりあえずシュウは俺がつれて帰る。シュウ、もう一度確認しておくが、本当にこいつとつがいたいんだな?」 「ぇ、と……、うん」 「……まさか、脅されたり無理やり何かされたわけじゃないだろうな?」 「ぅえ!? そ、そんなこと、全然ないし!」 「本当か?」  大兄ちゃんの怖い目に睨まれて、慌てて首を縦に振った。本当はミチカとつがいになる実感なんてなかったけど、別に脅されたりはしていない。それに、つがいになるのが嫌とも思っていなかった。  だって、ミチカはオレを好きだって言ってくれた初めての奴だ。それに、きれいでかわいいとも言ってくれた。  かわいいっていうのはどうかと思うけど、こんなオレに「きれい」って言ってくれるのはミチカだけだ。肉もリンゴもいっぱいくれるし、耳も尻尾も洗ってくれる。  それに……、ミチカって、大兄ちゃんくらいきれいだと思う。体はけっこうムキムキだったし、背も高いし、メガネだけどきっと強い狩人なんだ。  そんな強いミチカにつがいになりたいって言われて、ボーッとしていたけどうれしかったんだ。だって、強い奴がオレなんかをつがいにしたいなんて、絶対にあるわけないって思っていたからさ。 「……わかった。シュウはもう一人前の大人の狼だ。自分で決めたんなら、それでいい」 (大兄ちゃんに、初めて一人前の大人だって言ってもらえた……)  そっか、つがうってことは大人になった証拠なんだ。ってことは、オレはもう立派な大人の狼になったってことか……! いっつもチビでビビリなんてバカにされてきたけど、オレだって立派な大人になったってことだ! 「とりあえず一度帰って、親兄弟につがいができたことを報告しよう」 「うん」 「それから、その匂いだが……。まぁ、マーキングには違いないからごまかす必要もないか。鼻の利く奴らには人の匂いだとバレるだろうが、そういう奴らは理解しているから問題ないだろうしな」  そんなにミチカの匂いがするのかな……。腕をクンクン嗅いでみたけど、オレにはよくわからなかった。そんなオレの頭をミチカが優しく撫でてくれた。  ……耳と尻尾を洗ってくれるときも気持ちいいけど、撫でられるのも気持ちいいなぁ。 「僕の大事なシュウなんだから、しっかり見守ってくれよ?」 「わかっている。いちいち言うな、無性に腹が立つ」 「なに? もしかしてシュウの親になった気分とか?」 「当たり前だ。生まれたときから知ってるんだぞ。それが、こんな腹黒い王……、狩人のつがいになるなんて、なんの悪夢だ」 「あはは、いいじゃないか。だって、すべての始まりは“白き狼とお姫様”だったんだ。まぁ、僕たちの場合は“黒い狼と城にいた人”だけど、同じようなものだしね」 「……はぁ、もういい。おまえと話してると頭が痛くなる」  大兄ちゃんが頭の横を指でグリグリ押している。あれは一番上の兄貴が、頭が痛いときによくやっていたやつだ。 「とにかく三日は待て。いいか、おとなしく待つんだぞ」 「三日かぁ。うーん、待てるかなぁ。あ、主に下半身がだけど」 「うるさい、もう何もしゃべるな。……ったく、なんでナナヤはこんな奴と友人なんだ。意味がわからん」 「あぁ、ナナヤにもよろしく」 「うるさい。おまえの話をしたら胎教に悪い」 「…………へぇ、まさか本当にが出たのか。もしかしてって話はナナヤから聞いていたけど、なるほど、祝福し直したリンゴでもすごい力を持っているってことだな」 「わかっている、全部おまえのリンゴのおかげだ!」 「あはは、ご入り用のときはいつでもどうぞ」 「帰るぞ、シュウ!」 「は、はいっ!」 (大兄ちゃんがすっげぇ怒ってる……!)  これ、絶対にミチカのせいだよな。オレにはすっげぇ優しいけど、もしかしてナツヤみたいに大兄ちゃんにはいじわるってことか……? つーか、大兄ちゃんが何で怒っているのか全然わかんねぇ……。 「あ、念のため僕の知り合いの医者に診てもらうといいよ。狼専門だけど人も診てくれるから、連絡しておこうか?」 「……チッ。ナナヤのためだ、よろしく頼む」 「舌打ちしたのは聞かなかったことにしておくよ」  ニコニコしたミチカを見た大兄ちゃんは、またチッて舌打ちした。こんな大兄ちゃんを見たのは本当に初めてだ。  結局、この日は大兄ちゃんに連れられて家に帰ることになった。帰り道、「おまえのつがう相手はナナヤと同じ群れだって言うこと」っていうのを大兄ちゃんと約束した。  やっぱりミチカと大兄ちゃんのつがいは知り合いだったんだな。でも、人って群れとか言わなかった気がするんだけどなぁ。大兄ちゃんのつがいは狼だって言っていたし、変なの。  でもナツヤたちにいろいろ聞かれても面倒だから、群れでいいか。それに大兄ちゃんのつがいと同じ群れだって言えば、きっとナツヤたちも悔しがるだろうし。いっつもオレのことチビでビビりだってバカにしていたけど、オレのつがいはすごいんだからな!  そう思ったら何だか胸がスカッとした。   ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽  明日、シュウがこの家に帰ってくる。待ち遠しくて口が緩みっぱなしだ。  シュウが群れに戻って五日が過ぎた。二日目にハルキから手紙がきたときは揉めたりしていないか心配したけれど、どうやらそんなことはなかったらしい。予想どおりというか何というか、シュウの親兄弟はシュウがつがうということに驚きはしたものの、それほど興味を持たなかったようだ。  シュウの扱いには多少苛ついたけれど、狼は強くて逞しい肉体がすべてだから、そうじゃない個体への関心が薄くなることは理解している。 「こういうとき、狩人組合に入っていてよかったって本当に思う」  狼の生態のことは狩人組合が一番詳しい。それは一定数の狼たちと交流があるからだけど、おかげでシュウとも問題なく暮らせるだろう。以前の僕がマジメに働いていたご褒美だ。 「それにしても、まさか荷物に苦戦しているなんてね」  大荷物を前に、どうやって担ごうかウンウン唸っているシュウを想像して思わず笑ってしまった。  家族とまったく揉めることがなかったシュウは、本当ならハルキが言ったとおり三日でここに帰って来るはずだった。それなのにどうして未だに群れにいるのかと言うと、ここに持ってくる荷物に苦戦しているらしい。  服や普段使っている日用品だけじゃなく、自分で作った保存食やベッド代わりにしていた麻袋まで持って来ようとしているようで、ハルキが「あれは精神的にはまだ子どもみたいなものだ」なんて手紙に書いていた。  うんうん、子どもみたいだという感想には大いに賛同するし、そこがかわいいんじゃないか。 「この家から出してもらえないかもしれないって思って、一度に運び込もうなんて思っているんだろうなぁ」  狼の中には、つがいを家の外に出したがらない個体がいる。昔はそういう狼が多かったみたいだけれど、いまはそうでもなかったはず。  ……あぁ、そうだった。ハルキはつがいが外に出るのを嫌がるから、シュウはそれを見て自分もそうなるんだろうって思ったのかもしれない。だから一度に全部持って来なくちゃって考えたんだろうけど、大事なものだけ持ってくれば十分なのに。日用品なら、僕と一緒に買い揃える楽しみもあるわけだし。 「それにしても、ハルキには困ったものだよな」  狼の習性だからって、つがいを監禁まがいに閉じ込めるなんていかがなものかと思う。そのことで何度もナナヤが怒って家を飛び出してきた。そのたびに僕はハルキに噛み殺されそうになった。  まったく、痴話喧嘩は二人の間だけで済ませてほしい。 「僕はどちらかっていうと、一緒にいろんなところに出かけたいかな」  シュウの知らないことを、一緒にたくさん楽しみたい。シュウたちの群れが住む森は近いから、たまになら里帰りしても構わない。一人で森を散歩したっていい。  必ず僕のところに帰って来るのなら、大体のことは許してあげよう。 「でも、少しでも逃げようなんてしたら、縄で縛ってベッドに繋ぐかな。二度とそんなことなんて考えられないように、あちこちにたっぷり匂いをつけて、気絶してもたくさんたくさん泣かせそうだなぁ」  それに僕は狩人だから、狙った獲物は絶対に逃さない。 「はぁ、待ち遠しいなぁ」  本当にこんな気持ちになるのは初めてで、自分の気持ちなのに持て余しそうになる。それもこれもシュウがかわいすぎるのがいけないんだ。 「そうだ、人には注意するようにちゃんと言っておかないと」  でないと、危なっかしくて一人にはできない。狼なんだから、もう少し警戒心を養ってほしい気もする。 「僕以外には絶対に懐かないようにしたいくらいだ」  僕以外の人を見たら全身の毛を逆立てるくらいにならないかな。そうして僕にだけ甘えてほしい。 「……なるほど、僕にも一人前に独占欲なんてあったのか」  初めて気がついた。独占欲なんて、まるで父上から僕を遠ざけようとした王妃みたいで笑えてくる。もしくは、必死に周りを蹴落としながら僕に擦り寄ってきた女性たちといったところか。 「でも、悪くはないかな」  以前は吐き気がすると思っていたけれど、いまはこういう気持ちも悪くないと思える。シュウが僕だけに懐いてくれたらいいのにと考えるだけで、お腹の底からゾクゾクするくらいだ。 「はぁ、本当に待ち遠しい」  今夜寝てしまえばシュウに会えるとわかっているのに、焦れったくてしょうがない。そんな気持ちをなだめるようにシュウのかわいい顔を思い出して、またゆるりと笑ってしまった。

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