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執着点
彼はその唇に冷笑を浮かべる。貪欲な瞳をこちらに向けてこう言った。
『君、そんな芸名じゃ売れないよ』と。
少し気怠げな声色は鼓膜に絡みついて離れず、組まれたその指は艶めかしく水晶を撫でるのだ。
『じゃあ、俺に相応しい名前付けていただけますか?』
『うーんそうだね、レインとかどう?』
二年前、阿形雨音 は伸び悩むモデルの仕事に対して何か良い転機を探していた。その怪しげな男に対して(あー、これは詐欺師だ)と確信したがモデルの先輩からの紹介は無下にはできない。
(こんなのに騙されるなんて馬鹿なのかな)とは思いつつ、雨音はその雰囲気に呑まれ、目が離せなくなるのだ。
『岬 れん、て芸名も悪かないけどね。画数的に君の本名の阿形と響き的にレインがいいんじゃない?』
ガキだと思って下に見たように鼻で笑う。きっと同じような客が彼の元にはよく来るのだろう。そして雨音もそのうちの一人である。
(ムカつくけど、顔は好みなんだよなあ…。体のラインも綺麗だし…)
舐め回すように頭からつま先まで視線を這わせて、彼の適当なアドバイスは話半分、その綺麗に整えられたYシャツを無理やり引き剥がし、スカした顔をぐちゃぐちゃにしてやりたいと欲望を募らせる。
『えー、一時間七千円プラス改名料金五千円、一万二千ね。あ、でも売れてないんだったか。一万ポッキリに値下げしてあげる』
その舐めきった男に苛立ちと下心を隠しながら雨音は一万円を詐欺師に渡した。触れた指先はやはり氷のように冷たく、だが無垢な子供のようにその目は金に向かってキラキラと輝き出すのだ。その時雨音は目の前の男をどうしても手に入れたくなった。
次の日から”岬れん”から”阿形レイン”に改名する。それは本当にこの名前に変えたなら成功を掴める、と信じた訳では無い。ただの下心と陽艶時という人間への興味だ。
「ひーちゃん?ひーちゃんなら和一のとこよ」
いつ来ても客のいないバーで、その爽やかで愛嬌のある笑顔はヒビが入ったように固まった。
「和一さんの所、ですか」
片手に可愛らしい花束を握り締めた雨音に健二郎は察したのだろう。「まあ座んなさいな」と優しく促した。雨音は言われるがままそれに従い腰を下ろす。
「その花、もしかしてひーちゃんに?…この間もあげてたわよね」
健二郎は慎重に探りを入れてくる。洗い物をしながら片手間だ。
「はい。通りに花屋さんがあるんですけど綺麗だからあの人にあげようと思って」
彼は誰もいないのに辺りをキョロキョロ見渡し、水道の蛇口をキュッと閉める。そして声を潜めて「えっと、レインはひーちゃんの事そういう意味で好きなの?」とド直球に問いかけるのだ。
「一応職業柄断言は出来ないですけど。」
「あらやだ〜、そうよね。」
雨音は直ぐに「応援してくれますか?」と笑顔を浮かべる。陽向が押しに弱いことは分かっているのでまずは周りを固めなければならない。しかし健二郎は少し複雑そうに視線を逸らした。その理由は雨音にも想像容易い。
「えーっと…」
「応援するって言えないですよね。だって陽向さんは和一さんのこと好きですもんね」
「…そうね。でも本人は長らく気がついていないようだから…なにか飲む?」
雨音はそれを丁重に断ると、「和一さんは協力してくれるって仰ってくれたので心強いです」と無邪気に笑ってみせる。正直雨音が負ける要素などひとつも無い。陽向の想い人は既婚者であるし、本人も和一への恋心に気がついていないのだから。それに和一は義理堅い性格と見て、雨音の気持ちを知っている以上何か行動するとは思えない。
(それに誰が相手でも譲る気ないけれど)
「……和一はどうかしら。あの子ああ見えて―」
「ただいま〜。ケンジくん?帰ったよ〜」
普段より陽気で弾んだ声。上機嫌に緩んだ口元。そしてこちらに気がつくと少し驚いたように目を見開いて戸惑うのだ。
「…お前何してんの」
「何って待ってたんですよ。はい、これ」
雨音は花束を陽向に差し出した。彼は「貰っても困るんだが…まあ、ありがとう」と言いつつそれを受け取って雨音の隣に座る。その白い耳にかぶりつきたくなるのを理性で無理やり押さえつけ、何事もないように振る舞うのだ。
「和に渡してきたよ。事情は本人から聞いてね。」
「…あらありがとう。生きてるならいいのよ」
「一応何かあった時のために連絡先交換したわ。よく良く考えれば今までしてなかったのが不思議だよなあ」
金を見ている時のようにキラキラとその目を輝かせ、陽向は健二郎に話して聞かせる。雨音の努力を平気で踏みにじる男に苛立ちを覚え、ギリギリと奥歯を噛み締めた。
(あれほど好きだって言ったのに、まだ分かってないのかこの人は)
好き過ぎると憎しみに変わる、というのはあながち間違っていないようだ。その唇が『和』と発するだけで喋れぬように塞いでしまいたいと思う。
「和の部屋って―」
「陽向さん。もう終わりですよね。帰りましょう」、雨音は彼らの会話の途中にも関わらず強引に割って入った。
「いや、まだ喋ってるだろ」と怪訝な顔をする陽向の腕を無理矢理掴んで引き摺るように席を立たせる。流石に健二郎も「ちょっと…」と不満げだが、雨音にとっては関係ない。
「すみません。でもムカつくので連れて帰ります」
絶対に逃がすものか、その強い執着によって支配された頭は散った花弁にすら気が付かない。
(…分からないなら分からせる必要がある)
それはリードを無理やり引っ張る飼い主のように強引だ。陽向は立ち止まることすら許されず、人を掻き分け先を行く男がどのような表情をしているか分からない。ただ力任せに握られた手には強い怒りが滲んでいる。
「おい!痛てぇよ止まれ!」とその背中に文句を垂れても彼は振り向くことは無い。
特に欲しいとも思っていない花束だったが、どこそこにぶつかって花びらが散って貧相である。気の毒に思うのはそれが綺麗だからだろう。
「雨音!…花が…」
ようやく繁華街を抜けたからだろうか、彼はその足を止めた。少し緩んだその手を振り払う事も出来たが、寂しそうな背中に陽向は躊躇った。ひらりと舞った花びらが冷たい地面に落ちていく。
「…お前、何怒ってんの?俺あんまり人の事に鈍いから言ってくれないと分からないんだけど」
雨音はそろりとこちらに向き直ると、その愛らしいタレ目に涙の膜を浮かべる。…その時陽向は(これは色々とまずいかもな)と予感するのだ。大きな波のようにこの男に押し流される自信がある。
「…俺、あなたのこと好きって言いましたよね」
「…あー、うん。聞いたよ」
「それなのに、和一さんの事ばっかり…」
まるでドラマのように彼の右頬に一筋の涙が光るのだ。それを拭いたくなるのをグッと堪えた。
「なんで和の事が出てくるんだよ…。つーかめんどくせぇんだけど…」
「ややこしくしてるの、陽向さんの方でしょ。俺の事好きになれないならハッキリ断ってくれたらいいのに…」
「……た、確かに」
時として非情に切り捨てることも大切だ。しかし正直弟のように懐いてくるこの男を捨ててしまったら喪失感に押しつぶされるだろう。あれほど金以外に執着しないつもりだったが、こうして惜しむということはそれなりに雨音を気に入っているということだ。
「あなたはいつまでも有耶無耶にして…和一さんと上手くいったら捨てるんでしょ」
「…あのなぁ…」
男二人、それに図体もでかい。そんな彼らが外れとはいえ道の真ん中で手を握っていれば目につくだろう。陽向は特に何か大きな問題がある訳では無いが、芸能人の雨音は違う。それに一応人気らしいので写真に撮られでもしたら大変だ。
「あー、とりあえずここでは流石に…。……しょうがねぇなあ…」
ポリポリと頭を搔くと、今度は陽向が犬のリードを優しく引く。その涙が嘘か本当かはどうだって良かった。それは雨音の気持ちを知って放置している罪悪感に比べれば重要ではなかったからだ。
にっと上がった口角など先をゆく陽向に見えるはずもない。
落ち着ける場所、思い当たるのは陽向にとってひとつしかない。鍵を差し込んで回す指は何だかやけに緊張してしまう。扉を開けるといつもの一人暮らしの部屋が広がっている。
(…なんか自ら部屋に招き入れるのって勘違いされるんじゃね?)と今更ながら気になって仕方がない。
「……何やってんだ。はやく入れ」
「…俺、入っちゃったら抑えが効かないと思います。それでもいいんですか?」
玄関で立ち止まる男のギラギラとした視線が身体中に突き刺さる。先程までの涙は何処へ消えたのだろうか。そう言えば彼はドラマの主演を務めていた。涙を流すことなど容易い。
「陽向さん、選んで。俺を捨てるか、ここで抱かれるか」
「ははは、何言ってんの…勘弁して」
あの日の快楽が思い起こされ、腹の奥がじくじくと疼き始める。だが陽向の良心は、(体を与えたとして彼の望む愛情を与えられるのか)と訴えるのだ。
「…俺には誰かを愛せるような度量はないよ…」
陽向は今まで金しか愛していなかった。そんな人間にはハードルが高い。体の関係だけなら簡単だが、雨音はそれ以上を求めている。彼の好意を弄びたいとは思わない。どれだけ屑人間だと自覚があってもだ。
「……そう、ですか。分かりました…」
雨音は悲しみを隠すように笑顔を作った。陽向はその顔に自分が傷つけられたように胸が傷む。
彼は陽向以上に苦しい筈なのに笑って背を向けるのだ。ドアノブに掛けられたその腕は震えて、開かれた扉の先には薄闇が少し顔を覗かせる。…ここを出たならきっと雨音がスウィンドーにやって来る事は無いという事実を突きつけられた。
(…嫌、だな。なんか…)
一歩、その足が外に踏み出そうとした時。陽向は邪な考えなど一切頭にないまま雨音の手を掴んだ。
その瞳は解放される欲望に妖しい火が灯る。掴んだその手を離そうなどと今更思ってももう遅い。
衝動的に雨音は陽向を壁に押し付けると、その唇をまるで肉食動物が獲物に食らいつくかのように吸い付かせる。
生暖かく、息すら飲まれそうなほど激しい口付けは酷く官能的で簡単に理性をぶち壊す。視界が熱でぼやけ、その肉欲に溺れそうになるのだ。右手の花束は床に落ちて、またひとつ花弁を散らした。
「あ、雨音、ちょっと待て」
その静止はもはや無意味だ。直ぐに塞がれる口は、だらしなく優しさなど微塵もない欲望を受け入れる。逃げられぬように顎を掴まれ、口内を掻き回される、それにどうしようもなく悦びを感じて仕方がない。
ようやくその深い口付けが終わると、爽やかさの欠けらも無い男の顔がにっと笑った。
「…陽向さん」
雨音は陽向の耳朶に舌を這わせ、腰を引き寄せるように掴む。体が密着すると腹に硬くなったそれが触り、なんとも言えない気持ちである。
「うぁっ、や、やめろ…」
「そんなんでどうするんですか?…俺、これをあなたの中に入れるつもりなんですけど…」
「…まじ?それは勘弁して」
「だーめ!抱くって言ったでしょ」
脇腹からスっとその手を忍ばせ、敏感な胸の突起を撫でられゾワゾワと背筋が泡立った。声を漏らさぬよう唇を噛み締め堪える。時々苦しくて漏れる吐息に雨音は「弱いんだから、我慢しなくてもいいのに」と嘲笑った。
「…っ、調子にのんな」
「えへへ、調子に乗りますよ。毎日毎日あなたのこと考えてたんだから」
雨音は手際よく陽向のズボンのベルトを外し、シミの出来た下着をじっくり観察する。見られている、そう思うだけで腹の奥、快楽を知るそこが煮えて目が眩んだ。
「こんなに張り詰めて…触って欲しいですか?」
「別に?…これはただの生理現象だから」
意地を張れば張るほど雨音はそれを崩そうと躍起になるだろう。案の定陽向の行動は雨音の性欲を煽るだけである。その眼光は鋭く、吊り上がった唇から見える白い歯に喰われそうだ。
「ああ、すみません。あなたはこっちの方が好きなんですかね」
「…あッ…!」
その両手は陽向の尻をギュッと握った。背筋に電流が走り、陽向は思わず我慢していた声を上げてしまう。
「ふふ、やっぱりそうだと思いました。」
そう言いながら感触を確かめるように揉みしだかれ、どうにか体重を支えていた膝がガクガクと震えて自立できない。雨音は支えるように抱きしめる。そして尻の割れ目をなぞりながら耳元で「陽向さん、欲しいでしょう?きっととても気持ちいいと思いますよ」と甘い誘惑を囁いた。
欲しい、そしてそれがとても良いものだと分かっている。だから陽向は荒い息と共に箍 が外れた。
「…ぁ、ほ、欲し―」
「ちぃ〜~~~す。陽向〜?きょー泊めて〜………………………あ、取り込み中だった感じ?」
やけに明るい声はその噎せ返る空気など感じていないようだ。服も乱れ、密着した男二人を目の当たりにしても、山下光輝 は動揺しない。ズカズカと上がり込んで、雨音の後ろを通り過ぎた。
「うぃー!疲れたあ」と言いながら陽向のベッドにダイブして荷物を床に放る。それに昂っていた体の熱が一気に引いていくのだ。
陽向は恐る恐る雨音を見やると、鬼の形相で光輝を睨んでいる。それは普段愛嬌のある可愛らしい笑顔からは想像もつかない。
「こ、光輝〜?まじかよお前…」
「俺は気にせず続きどうぞ?陽向そういうの好きじゃん」
この図々しい男はこうなれば絶対に帰らないだろう。人の家だと言うのに勝手にテレビを付けて、テーブルの上に買ってきたであろうポテトチップスをパーティー開けするのだ。「終わったら一緒に食おーぜ!お酒もあるから」と間延びした声で一人盛り上がる。
「……はぁ〜、なんか萎えました」
雰囲気をぶち壊しにされて、雨音はガックリ肩を落とす。陽向は内心ホッとした。それが顔に出ていたのだろう、彼は「性急過ぎましたね。すみません」と陽向の乱れたシャツやズボンを整える。それにありがとう、すら言い出せず、寛ぐ 光輝の方へ逃げるのだ。
(俺ってつくづく卑怯者だよな…)
「おい、光輝。そこに正座」
ベッドの端から出ている足を蹴り、ぐちゃぐちゃのシーツに眉を寄せた。光輝はヘラヘラ笑いながら床に正座して、ボリボリとポテトチップスを口に含む。それに腹が立ってゲンコツをひとつお見舞いしてやった。
「痛てて!何すんだよー!大体、鍵閉めてねーのが悪いじゃん!そんなまさか、玄関先でおっ始めてるなんて誰も思わないよぉ〜」
わざとらしく泣き真似をする光輝に腹が立って、もう一発ゲンコツを落とす。それに雨音は「陽向さん、暴力はいけないですよ」と陽向の手首を掴んで制止するのだ。雨音を見上げる光輝は何かピンと来たのか、あっ!と声を上げる。
「よく見たらこの間バーにいた子じゃん」
「……ええ。そうですよ。」
「なに?お前ら面識あんの?」
光輝は痛む頭を撫でながら、だが懲りていないようでペラペラと口を動かす。余計な事を口走らなければ良いが、光輝にそれを期待する方が間違っているだろう。
「そうそう!スウィンドーでね!雨辻くんと、三人でお話したよね〜、…でもまさか君とそういう関係になってるとは…。ねえ陽向〜、まだあの癖治ってないの?」
「…癖?」
雨音は興味があるのかほんの少し前のめりになる。だが彼に聞かれては困ることだと自覚がある陽向は、男の口を塞ぐことに専念しなければならない。「ヤリながらあめ―」と光輝が口走った時、その油でベトベトの口を手で塞いだ。
「五万!…五万やるから黙ってろ」
この男は金で黙らせる他ない。金が大好きな陽向にとってそれはとても辛いことではあるが、光輝は事をややこしくする天才だ。
「…もー、わかったわかった!後でちょーだい!あ、そーだ、君も飲む?日本酒ばっかりだけど」
光輝はコンビニで赤い紙パックの酒を大量に買い込んだようだ。それをまず陽向にひとつ手渡し、その後に雨音に差し出した。苦笑いを浮かべる雨音など視界に入らないようで、付属のストローで穴を開けてちゅーちゅーと中身を吸う。
「俺、日本酒飲めないです」
「えぇぇ〜?まじ?人生損してるぅ〜」
光輝のウザ絡みは慣れていない人間にとっては辛いだろう。慣れている陽向ですら時々嫌になるのだから。雨音は小さくため息を付いて、「…陽向さん、俺そろそろ帰ります。」と背を向けた。
「帰るなら俺も表まで行こうか?」
「いえ。結構です。では」
「お、おう…。気ぃーつけてな」
こちらを振り返ること無く雨音はせっせと玄関へ向かう。ドアがバタンと音を立てて閉まり、陽向は少し後悔した。それは雨音を引き止めた事ではなく、隣に居座る光輝を真っ先に追い出すべきだったという後悔だ。
「あー、もう、お前のせいでめちゃくちゃだ」
「ええ〜?陽向、俺の顔みた時ホッとしたくせにぃ〜。」
キャピキャピと騒がしい男に耳鳴りが起きる。だが光輝の言っていることは間違っていないので、文句の付けようが無かった。とりあえず手渡された酒を光輝に返し、ベッドの端に腰を下ろす。
「つーかお前、また流されてヤっちゃうとこだったでしょ」
「……別に流されたわけじゃねーよ」
「ふーん、じゃあ付き合ってるの?」
光輝は痛いところを突いてくる。確かに陽向は雨音を受け入れようとはしたが、正式に付き合っているとは言い難い。ここは男を見せて自分からちゃんと雨音に告白した方がいいのだろうが、簡単ではない。
雨音は芸能人であるし、陽向は人を騙して飯を食っている身だ。…クズはクズなりに考えることがある。
「……………」
「ほらー!やっぱり!お前昔っからそうよねー。付き合っちゃえば?背も高くてイケメン、金も持ってそーじゃん!」
「簡単に言うな。…俺には釣りあってねーよ」
陽向にはまず恋人関係になる時一番に引っかかる所がある。それは自分より優れていて、世間一般的に価値がある人間に対して抱く劣等感の様なものだ。だからいつも陽向が適当に付き合ってきたのは、酷い話だが自分より劣ると感じた人間だけだ。
「うーん、お前って自信家ぽいのに変なとこマイナスだよなあー!最悪貰い手いなかったら俺が貰ったげるね!」
「お前とどうこうなるくらいなら一生孤独でいいわ」
「お!言うねえ〜。せっかく鮭とば買ってきたけど陽向にはあ〜げない!」
このアホさ加減にほんの少し救われる、それは今も昔も変わらない。…問題を解決するのには相応しくないが、後回しにしたい時は光輝のような存在が必要だ。
「風呂入ってくるわ」
せっかく貰った酒に手を付けずテーブルの上に置いて、色々と悲惨な体を清めるため立ち上がる。「あれ?酒飲まんの?」と光輝は怪訝な顔をして口を尖らせた。それに陽向はキッパリ断りを入れた。
「俺今禁酒中だから」
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