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第2話

次の週の水曜の1限も、彼は先週と同じく、後ろの右端の方の席に座っていた。 珍しく講義開始の5分前に到着した俺は、せっかくだし首藤さんに声をかけてみることにした。 「おはようございます、首藤さん。 この前はありがとうございました。」 「……あぁ、どうも。」 「今日もここ座っていいですか?」 「どうぞ。」 それ以上は特に話すことはなかったけど、俺が睡魔と勝負している間も、首藤さんは講義を真面目に聴いて度々メモを取っている様子だった。 レジュメの余白に書かれる文字はとても綺麗で、俺が睡魔と戦っている時に書いたミミズの這ったような字とは似ても似つかない。 「字綺麗ですよね。」 さすがに講義中に話しかけるのは(はばか)られて、講義後に席を立とうとする首藤さんに、それだけ伝える。 もっと首藤さんと話してみたいとは思っていたが、今までの反応から考えて長めの会話は得意じゃなさそうだし、今日はひとこと返してくれたらいい方だ。 「どうも。」 それだけ言うとまた早々に教室を出ていった。 おおかた予想通りの反応ではあったが、いつも何かしら返事はくれるし、噂で言われているような人とはなんとなく思えない。 「天宮おはよう。」 「おはよう桐谷。」 「今日珍しく早いと思ったら、首藤廉さんと話すため?」 「いや、起きれたのはたまたま。」 「たまたまかよ。 それで首藤廉さんと少しは仲良くなれた?」 「全然。来週また話しかけてみる。」 「じゃあ来週もしっかり起きないとな?」 「……それはちょっと厳しいかもしれない。」

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