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第3話

「こんにちは、春夏(はるか)さん。」 「こんにちは、先生。 あのね、この前やったとこ1人でもやってみたんだけど、見てくれる?」 「もちろん。」 ここには3ヶ月程前から週に1度、水曜日の13時から家庭教師に来ている。 春夏さんは今高校2年生だけど、全然通えていないらしい。 けれど俺の通っている大学に入りたいという目標があって、家庭教師を頼んだとのことだった。 勉強にはとても真剣に向き合っているし、彼女自身も素直な性格、そして平日の昼間ということもあってかお家の人とも顔を合わせることがないため、とても家庭教師をやりやすいお家ではあった。 「全部合ってる。よく勉強してて偉いね。」 「やった! 本当はお兄ちゃんに少し手伝って貰ったんだけどね。」 「お兄ちゃんいるんだ?」 「うん。先生と同じ大学の4年生だよ。」 「そういえば春夏さんの名字って……」 ガチャッ 丁度いいタイミングでリビングの扉が開けられる。 「ただいま。」 「おかえり。 あれ、お兄ちゃんバイトは?」 「大学出たくらいに急に雨降ってきてびしょ濡れ。だから時間あるし一旦帰ってきた。 風呂入ってからまた行くよ。」 「そっか。」 「あ、ごめん。家庭教師の先生来てたのか。」 「うん。丁度お兄ちゃんの話してたの。」 「俺の?」 「うん。お兄ちゃんと先生が同じ大学だ、って。」 春夏さんの言葉で、ふっと視線を流した彼と、目が合った。 「お邪魔してます。」 「……あ、どうも。春夏がお世話になってます。」 春夏さんのいうお兄ちゃんは、首藤さんだった。 来週まで待たずとも、さっきの今で話せることになるとは思ってもみなかった。 「お兄ちゃんと先生、会ったことない?初めまして?」 「いや、多少面識はあるけど。 ……俺風呂入ってくる。春夏、勉強頑張れ。」 「うん!」 そう言って荷物だけ置いてリビングを出ていった。 春夏さんはペンを持ち直して手を動かしながらも、口を開いた。 「お兄ちゃんね、すっごく優しいの。私が言うのもなんだけど、結構イケメンだし。 でも友達と遊んで遅くなることもないし、彼女の話も聞いたことがない。」 「そうなんだ。」 「うち母子家庭でね、お兄ちゃんが忙しいママの代わりに家事してくれてるの。それに家のためにバイトもしてる。」 「……それはすごいね。」 「私がお兄ちゃんの人生邪魔しちゃってるんだよね。 家にいる私が家事すればいいし、少しでもバイトすればお兄ちゃんはもっと自由な時間が増えるのに。 けどね、春夏はいいんだ、ってお兄ちゃんに言われて、私は何もさせてもらえないの。 昔から過保護ぎみだったけど、私が家からほぼ出られなくなった時から、お兄ちゃんもっと過保護になっちゃって。」 「……そっか。」 「ごめんなさい。 勉強教えに来てくれてるだけなのにこんな話。 はい、さっき教えてくれたとこできた!」 「見せてもらうね。」 なんて声をかけるのが正解なのかわからなくて、彼女が話を逸らしてからは俺からその話題に触れることは無かった。

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