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第6話

バイト終わり。 春夏さんの家を出て少しした頃、確信は持てないけど、自分にずっと着いてきている人がいる感じがしていた。 でも振り返るのもなんとなく怖い。 そう思っていた時に、前方から見覚えのある人が歩いてくるのが見えた。 俺が足を止めると、その人も俺の前で足を止めてくれる。 「首藤さん、こんにちは。」 「どうも。」 「今からバイトですか?」 「いや、今日臨時休業なんで。」 「そうでしたか。」 「あの。」 「はい。」 「後ろの方、知り合いですか?」 気持ち小声で尋ねられ、さっきの疑問が確信に変わった。 「やっぱり誰かいますか?」 「はい。」 勇気を振り絞ってできるだけ相手には気づかれないよう、自然体を装って少しだけ振り返る。 なんか見た事のある人だし、多分でいえば、ここ数日で告白してきた人の誰かだと思う。 「多分この前少しだけ話した人で、名前も定かでは無いです……。」 「はぁ……。」 その言葉を聞いてため息をつく首藤さん。 ……俺なんかまずいこと言った? 確かに名前覚えてないあたりは、ちょっとあれかもしれないけど……。 「こっち。」 俺がいろいろと思考を巡らせている間に、俺の手首を掴んだと思うと、早足で歩き出した。 「……どこに行くんですか?」 「バイト先の店。」 「えっ、でも定休日なんじゃ……?」 「まぁ。」 「俺の事なら大丈夫ですよ? たまにある事だし、どこかで撒いて帰ります。」 そう言ったけれど掴んだ手を離してくれることはなく、ただ僅かに不機嫌そうな顔を見せて手を引くので、俺は大人しく連れていかれることにした。 そして無言で歩くこと数分、首藤さんが働いているという喫茶店に。 首藤さんはポケットをあさって鍵を取り出し中に入ると、内側から鍵をかけた。 そしてやっと口を開く。 「コーヒー、苦手じゃないですか?」 「はい、好きです。」 「そこ座ってて下さい。」 言われた通りカウンター席に座る。 「勝手に入って大丈夫だったんですか?」 「状況が状況なので。 むしろ店長は褒めてくれますよ。」 「褒めるんですか?」 「はい。いい判断したなって言いそうです。」 「なるほど……。 良い方なんでしょうね、きっと。」 「はい、とても。」 首藤さんがコーヒーをいれる様子を見ているうちに、徐々に気持ちも落ち着いていく。 「おまたせしました。」 少しして首藤さんの手によって目の前にコーヒーが置かれる。 「ありがとうございます。」 「ゆっくりして行ってください。」 「はい。」 「帰りは送っていきます。」 「え、そんな! 相手女の子だし、俺一応男だし。1人で帰れますよ。」 「性別とか関係ない。危ないから送ります。」 さっきより強めの口調で言われ、食い下がる。 「……ありがとうございます。 優しいですよね、首藤さんって。」 「別に。」 「優しいですよ。最初からずっと優しい。」 「……?」 よく分からないと言った顔をされて、それがなんか可愛くて、さっきまでの状況も忘れ、思わず笑みがこぼれる。 「普段から優しいから無意識なんですね、きっと。」

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