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第7話
1時間ほど喫茶店でゆっくりして、そろそろいなくなっている頃かもと思い、ふたりで外へ出た。
幸いな事に人影は見えず、とりあえず安心する。
けれど送るというのは譲ってくれないようで、お言葉に甘えて首藤さんと一緒に帰路につく。
喫茶店から俺の家は歩いて15分ほどで、そんなに遠い道のりではなかった。
けど安心したのも束の間、自分ちのアパートが見えたかと思うと、物陰から急にさっきの子が出てきた。
驚きと少しの恐怖で、無意識に距離をとる。
「もう!1人になるの待ってたのに、いつまで首藤廉といるの?」
「なんでいるんですか?」
「なんで首藤廉が天宮くんの家まで来るの?」
俺の発言は無視され、少しピリピリした雰囲気で話を続けられる。
「俺が誘ったんです。うちで一緒に映画でもと思って。」
「嘘。天宮くんいつも桐谷くんといるじゃん。その人といるところなんて見た事ない。」
「最近仲良くなって。
それより、なんで俺について来ていたんですか?」
「それは……、もう1回ちゃんと気持ちを伝えたくて。あの時は緊張してて上手く言えなかったから振られちゃったのかなって。」
「そうだったんですね。」
「だから、もう一度話をさせてくれる?」
「はい。」
「私、天宮くんのこと、ずっと好きだったの。
同じ講義でたまたま前の席に座った時あったでしょ?その時に私が落としたペンを笑顔で拾ってくれて。優しいな、かっこいいな、って思ったら気づけば目で追ってた。」
正直、同じ講義をとっていたことも、ペンを拾ったことも覚えてない。
興味無いことには本当に気持ちが向かないから、きっと俺の記憶にないだけなんだろうけど。
「うん。」
「ずっとずっと好きだったの。
私と付き合って下さい……!」
「ありがとうございます。
そう言って貰えるのは嬉しいです。」
「ほんと?だったら……!」
「でもごめんなさい。
やっぱり好きじゃない人とは付き合えないんです。」
「でも……付き合ってくうちに好きになるとか……!」
「それもひとつの形としてあるとは思います。
けど俺は、好きだと思える人としか付き合えない。」
「なんで?私のこと嫌い?」
「嫌いではないです。
けど、好きでもないんです。ごめんなさい。」
「なんで……!!」
彼女は急に怒りを露わにして、俺の方に詰め寄ってくる。
着いてきた上に待ち伏せなんてただでさえ怖いのに、次は何をされるかと思うと、無意識に手も足も震えていた。
すると今までずっと黙って見ていた首藤さんが、そんな俺らの間に入って口を開く。
「しつこい。」
「あんたは関係ないでしょ?邪魔しないで!」
「邪魔なのはそっち。
俺らの邪魔すんな。」
そういうと俺の腕を掴み、アパートの階段を登っていく。
「俺が鍵開けてもいいですか?」
その言葉に頷いて鍵を手渡せば、未だに震えが止まってない俺の代わりに鍵を開けてくれて、一緒に家に入った。
狭い玄関でふたり、俯いて立ち尽くしたまま、しばらく無言が続いた。
そして首藤さんが先に口を開く。
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