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第8話
「勝手なことしてすみません。
俺はもう帰りますね。」
「あ、いえ、俺の嘘に合わせてくれてありがとうございました。あと間に入ってくれたことも。」
身体の震えはまだ収まらない。
首藤さんは気づいているのかいないのか、それに触れては来ない。
「……あの、よかったら少しお茶でもしませんか?
さっきコーヒー頂いたお礼に。
もちろん忙しければ断って貰って大丈夫なので。」
「天宮さんがいいならぜひ。」
「いいに決まってます。
どうぞ、入ってください。」
「お邪魔します。」
先に靴を脱いであがり、テーブル周辺を軽く片付け、冷蔵庫を開ける。
「本当にお茶くらいしかないけど。
大したもの出せなくてすみません。」
明らかに震えている手で首藤さんにお茶を差し出す。
「どうも。」
2人でローテーブルを挟んで座る。
まだ落ち着かない心に自分が気づかないよう、首藤さんに気づかれないよう、自然といつもより口数が多くなる。
「今日はありがとうございました。
せっかくバイト休みなのに、俺が時間奪っちゃってすみません。」
「いや、俺が勝手にした事なんで。」
「……さっきのはちょっと怖くて。今もまだ震えが止まらないんです。
きっと首藤さんは気づいてましたよね。」
「まぁ。」
「そうですよね。
何年も前に同じような状況で、刺されそうになったことがあって。本当に刺すつもりはなくて、そうしたら俺が折れてくれると思ったみたいで。
その時のことも思い出して、さらに怖くなっちゃって……。
ってごめんなさい、こんな話。」
首藤さんに変に思われたくない気持ちが先行して、焦って、ペラペラと余計なことまで話してしまう。
首藤さんは特に何も言わなかったけど、少し間があった後、頭をぽんぽんっとされた。
その驚きのせいか震えは止まったけど、今度はなんだか涙が出そう。
「トイレ借りても?」
「あ、はい!
そっちの扉がトイレです。」
「どうも。」
首藤さんがトイレに入った途端、我慢していた涙が溢れてくる。
多分数分だったけどトイレを流す音がして慌てて涙を拭く。
なんだかスッキリした。
「じゃ帰ります。
念の為俺が出たらすぐ鍵閉めてチェーンかけて下さい。
あと何かあったら電話を。番号渡しておくので。」
ペンと紙を借りたいという首藤さんに、手帳とボールペンを手渡す。
首藤さんはそこに綺麗な時で名前と電話番号を書くと、俺に渡した。
「何から何まで本当にありがとうございます。」
「遠慮して電話しないとかは無しで。」
「はい。」
「じゃあまた。」
「はい、また。」
言われた通りに首藤さんが扉を閉めてすぐ、鍵とチェーンをする。
出会って間もない人間にここまで優しくしてくれる首藤さんは、人間ができすぎていると思う。
俺は桐谷以外で周りの人達にそこまで深く関わることは無いし、めんどくさいから絶対にこんな事しない。
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