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第10話

【首藤廉 side】 一度授業で隣の席になって10分そこそこ話した程度で、そんなに面白い話をした記憶もない。 けれどなぜか、天宮きいちという人間に、よく話しかけられるようになった。 学年も違えば、性格も違う。 愛想の良くない俺と違って天宮さんは愛想がいいし、コミュニケーション能力が高い。 以前ひとつだけ同じ講義を取っていた記憶があるけど、天宮さんはいろんな人から好かれているように見えた。 一方俺は、人とコミュニケーションをとるのが苦手で、仲良い友達も特にいない。 高校の時に俺と仲良くなりたいっていう変わり者がひとりいて、そいつとは今もたまに会うけど。 天宮さんはそんな俺と違って友達には困って無さそうだし、俺に構う理由がよく分からない。 しかも、俺に対して「すごく優しい。」なんて言葉をかけてくる人は初めてで、本当によく分からない人だと思った。 優しいなんて、俺と正反対のところにある言葉だと思っていた。 毎週水曜日1限目。 俺の隣に座って笑顔で話しかけてくる彼を、ただちょっと変わった人だと思って、そんなに気にしていたつもりもなかった。 でも妹の家庭教師だと知ってから、 彼が困ってそうなところに出くわしてから、 気にせずにも居られなくなっていた。 現にあの事があってから、うちの喫茶店で、天宮さんのことを好きだと言っていたあの女をみかけるようになった。 俺の事を監視しているのか、天宮さんに会えるのを期待しているのか知らないが、こんな事されるとまたいつ何があるかと、たとえ気にしたくなくても気になってしまう。 天宮さんとは大して深い仲でもないが、春夏は天宮さんのことを信頼して勉強を頑張っているし、春夏のためにも天宮さんに何かあっては困る。 あと普通にバイト中ずっと見られているのは居心地が悪い。 そういえば距離的に都合が良かったからバイト先にしてしまったけど、出くわす可能性はないだろうか。 まぁ俺が早めに着けば問題ないか。 「ただいま。」 「おかえり!ねぇねぇお兄ちゃん!先生とご飯行くんだよね!?」 帰ってきて早々、靴を脱ぐ間もなく春夏に詰め寄られる。 「そうだけど。なんで知ってるの?」 「今日先生にね、お兄ちゃんの好きな食べ物聞かれて、理由聞いたら教えてくれた!」 「そういう事か。」 「やっぱり先生とお兄ちゃん仲良かったんじゃん。教えてくれても良かったのにー。」 「いや、仲良くなったのはつい最近だよ。」 「そうなの?あっ、もしかして私のおかげ?」 「そうかもな。 んじゃ風呂入ってくるから。」 延々と質問してきそうな春夏から逃れ、脱衣所へ向かう。 なぜ春夏が嬉しそうなのかはよく分からないけど、あんなにはしゃいでるのは久々に見たかもしれない。 俺と天宮さんが一緒にご飯行くだけでそんなに喜ぶものだろうか……?

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