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第11話

【天宮きいち side】 首藤さんと約束した土曜日がやってきた。 事前に春夏さんに首藤さんの食の好みは聞いて、ある程度お店も決めてある。 11時頃に待ち合わせをしていたから、10時半には家を出て、15分前くらいに着く予定だった。 5分前だとすでに来てそうだし、そのくらいであればきっと待たせることも無く丁度いいのではと思っていた。 けれど、お店の前に首藤さんがたっているのが見えて、急いで駆け足で近づく。 「お待たせしてしまいすみません。」 「いや、まだ約束より早いんで。」 「それはそうなんですけど。 結構待ちました?」 「ついさっき来たとこです。」 「それならよかった。」 「駅の方に行くんですよね?」 「はい。その方がいろいろあるかなって。」 「じゃあ行きましょう。」 なんかいつもと違って意欲的?もしかしてお腹空いてるとか? 「やっぱり天宮くんだ。」 聞き覚えのある声と共に、嫌な記憶が甦ってくる。 あの日首藤さんの家の近くから俺の家まで着いてきた、あの女の人だ。 「チッ。」 声の主を見てすぐ、隣で首藤さんが舌打ちしたのがわかった。 首藤さんは彼女がいることに気づいてたから、俺が着いてすぐ、行きましょうって言ってこの場を離れようとしたんだろうか。 「休みの日一緒に出かけるくらい首藤廉と仲良かったんだね。」 彼女が1歩こちらに踏み出すと同時に、首藤さんは俺を隠すように1歩前に出た。 「何の用?」 いつもと同じ声、同じトーン。 だけど首藤さんが発したその言葉は、なんとなく怒りを含んでいるようにも感じた。 「天宮くんに会いたくて。 この前のが私を避けるためのいい訳じゃなくて、本当にふたりが仲良いなら、またこの喫茶店に来るかなって思って待ってた。」 ……怖すぎる。 避けるための言い訳ってバレてるのも、大学とかじゃなくわざわざここで待ってるのも。 この人の思考回路はよく分からないというか分かりたくもないけど、普段告白してくるような人とは違いすぎて、もう本当に関わりたくない。 「これ以上天宮さんに付き纏うなら警察呼びますけど。」 「は?なんで首藤廉にそんなこと言われないといけないの?あんたは天宮さんの何?どんな関係なわけ?」 ……なんて答えるのだろうか。 俺ならなんて答えるだろう。 友達……だと近すぎる? 知り合い、だと遠い気がするけど、首藤さんならそう答えそうでもある。 妹の家庭教師、というのが1番しっくりきそうではあるけど。 「関係とか必要? 今、天宮さんが恐怖を感じてて、俺はそれを見てそんな思いさせたくないと思ったから、警察呼ぼうとしてるだけだけど?」 「何言ってんの、恐怖って……。」 そう言ってこっちを見た彼女は、戸惑っているようだった。 この前より冷静なのか、やっと状況を把握したようにも見える。 そしてそのまま何も言わず、走って去っていった。 俺はひと言も発してないし、なんかよく分からないままだったけど、とりあえず一件落着なんだろうか。 「ありがとうございます。」 「いえ。 大丈夫ですか?」 「はい。 前回に続き、首藤さんがいてくれて本当に助かりました。」 「別に大したことは……。」 俺はいろいろ考えた彼女の言葉を、俺が想像もしていなかった言葉で、あっさりと跳ね除けてしまったのには驚いた。 彼の考え方が好きだ。 首藤さんといると、常に優しさを感じられて、心が暖かくなるようなそんな不思議な感覚におちいる。

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