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第12話
「今日は俺の奢りなのでいっぱい食べてくださいね。」
「別に奢ってもらわなくても……。」
「いえ、お礼なので。さっきも助けてもらったし。
俺に奢らせてください!」
「わかりました。
次回は俺が。」
そこに深い意味はないのかもしれないけど、“次回”といわれて、つい嬉しくなってしまう。
結構無理やり誘ってしまったと思っていたけれど、嫌じゃなかったって思っていいかな。
「さっきと打って変わって、だいぶ顔が緩んでますが。」
「あっ、すみません、つい。」
不思議そうな顔で見られて、慌てて表情筋を呼び戻す。
首藤さんのおかげで前回よりもだいぶ怖くなかったし、もはや首藤さんとご飯に行ける楽しみの方が上回ってしまっている。
そしてふと、改めて首藤さんを見て、そういえば今日は雰囲気が違うな、と。
「髪セットしてるんですね。」
「あぁ。なぜか春夏が張り切っていて、気づけば。」
「カッコいいです。
もちろん普段からカッコいいですが。」
「ありがとうございます。
天宮さんもいつもカッコいいです。」
「えっ、なんですか、急に。」
「急ですか?
いつも思ってましたよ。」
「今まで言われたカッコいいの中で一番嬉しいです。」
嘘ではない。
そもそも普段はカッコいいと言われても何も感じないだけなんだけど。
でもなんか、首藤さんから言われるのは嬉しい。
普段口数の少ない人が言うからだろうか。
「……大袈裟ですね。」
そう言って軽く笑う。
首藤さんが笑ったということと、笑った顔の破壊力の高さに驚く。
多分今、全世界の女の子が彼に惚れたと思う。
実際、すれ違う人からの無数の視線を感じている。
「初めて笑ってくれました。」
「そうでした?」
「なんだか仲良くなれた気がして嬉しいです。」
「……春夏が天宮さんを好いている理由がわかる気がする。」
「ん?」
「いえ、なんでも。
何食べに行くんですか?」
「いくつか選択肢があってですね……」
いくつかの候補地を出した後、定食屋に行くことになった。
首藤さんは一汁三菜のような、小鉢多めのザ・和食が好きらしい。
事前調査でご飯系が好きだと言うことは聞いていたから、お寿司屋さんとかカレー屋さんとかいろいろ考えてたけど、定食屋さんも候補に入れといてよかった。
「首藤さんがあそこの喫茶店でバイトしようと思ったきっかけとかってあるんですか?」
「きっかけ。」
「言いたくなければ大丈夫なんですけど、もし差し支えなければ……。」
「高校生の頃、よくあの喫茶店で授業サボってたんです。」
「首藤さんも授業サボったりするんですね。」
「しますよ。
あそこは静かで、平日の昼間に制服で行っても、店長は何も聞かずに居てくれて。すごく落ち着く場所でした。」
確かに、大きいお店じゃないから席数も少なくて、お店自体も少し目立たない場所にあるから、お客さんは多くない印象だった。
「あの店元々フードメニューはなかったんですけど、俺が店の2階にある店長の家のキッチン借りて作った飯が、店長の口に合ったみたいで、ここでバイトしてくれって頼まれて。」
「すごい。首藤さんって料理上手なんですね。」
「上手ってほどでも……。人並みです。」
「知らなかった首藤さんのこと、少しでも知られて嬉しいです。
今までそんなに話してくれたことなかったですよね。」
「すみません。家族以外とどう接していいかわからなくて。」
「俺は?」
「天宮さんは、最近少し慣れてきました。」
「よかったです。もっと慣れてください。」
「善処します。」
「はい。」
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