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第22話

「首藤って天宮とできてんの?」 「は?」 夏休みが終わって少したった頃。 卒論のため久々に学校に来たと思ったら、何度かグループワークをした事がある、多分名前は相川であろう人に話しかけられた。 グループワーク以外ではほぼ話したことがなかったのに、急に話しかけてきたのも、話の内容も理解ができない。 「この間女子たちが話してたのを聞いたんだけど。首藤と天宮ができてんじゃないかって。」 「何を根拠に。」 「夏休みもふたりが一緒にいるのを見かけた人が何人かいるみたいで、仲良い人が多くないふたりが最近妙に仲良くて、ふたりとも女子からの告白断り続けてて、ふたりとも美形だから、とかそんな内容だった気がする。 それに首藤が天宮にだけ塩対応じゃないって噂。」 告白断るなんてそんなの、今に始まったことでもない。 仲良く(?)なれたのも、天宮さんには塩対応じゃないのも、天宮さんがコミュニケーションを取ろうとしてくれた結果だ。 「くだらん。」 「まあそうだよな! 話してた子、天宮に振られたって話してたし、憂さ晴らしかな〜。」 「どうでもいいけど、天宮さんにもそれ聞いたりした?」 「いやさすがに聞いてない。全く面識ないし。 でもその話は天宮も聞いたと思うよ。数日前からいろんなとこで聞くし。」 俺と相川であろう人物も、面識はないに等しいけど。 天宮さんが聞いて不愉快な思いしてなければいいけど。 ────その頃の天宮。 【天宮 きいち side】 「女子たちから聞いたんだけどさ、天宮って首藤先輩と付き合ってんだろ?」 「いやいや、そんなわけないじゃん。」 夏休みの間に俺と首藤さんが一緒にいるのを見かけた人が多々いるらしく、しかもその時の首藤さんが全然塩対応じゃなかった故、流れ始めた噂らしい。 そんなこと言ったらいろんな人達が付き合ってることになるでしょ。 まあ多分でいえば、首藤さんがかっこいいからみんな気になるんだろうけど。 「でも最近いろんなところで話聞くけど。」 「みんな適当言ってるだけだよ。首藤さんとはそんな関係じゃない。」 今日だけで、ギリ知り合いかもしれないレベルの人から知り合いではないだろう人まで、いろんな人からその質問を何回もされた。 さすがにもう疲れた。 みんなその話にそんなに興味ある? 他人がどんな恋愛してようがどうでも良くない? 「その話嘘なんで。天宮さんを困らせないでくれますか。」 完全に疲れきった俺が、隣の席で同じく疲れてる桐谷に愚痴ろうとしたタイミングで、後ろから首藤さんの声が聞こえた。 振り返ると、すぐ後ろに首藤さんが立っていた。 全然気づかなかった……。 「天宮を気遣うなんて余計怪しい……。」 首藤さんにまで突っかかる名前すら知らないその人物に、だんだん苛立ちすらおぼえはじめる。 「だから俺らは違うって。」 「天宮はこう言ってるけど、首藤先輩は好きなんじゃないですかぁ?」 首藤さんが来たこともあってか周囲の注目は集まる中、これまた名前も知らない人物Bも調子に乗り始めた。 いい加減にしてくれ。 首藤さんに失礼なこと言わないで欲しい。 「あのさ……「あぁ、まあ。俺は好きです。」 俺の言葉を遮るように首藤さんが発した言葉によって、たった今キレようとしていた俺の思考が止まる。 「「「えっ!?」」」 その講義室にいた全員の思考が止まった事と思う。 「首藤さん天宮のこと好きなんですか!?」 さっきまでの疲れた顔はどこへやら、桐谷が驚いた顔で首藤さんを見る。 「はい。」 「初耳。」 そうボソッとつぶやくと、状況を把握出来ないと言った顔でこちらを向く。 そんな顔で見られても……。 「いや俺も初耳だし……。」 「初めて言ったんで。」 なんでこの人はそんなに平静を保っていられるのか。 それにあまりにもサラッというもんだから、危うく聞き逃すところだった。 首藤さんのひとことで、周りも茶化すに茶化せない空気になって、ひとりひとりと減っていき、俺と首藤さんと桐谷だけが場に取り残される。 「あ、じゃあ俺も、、」 立ち去ろうとする桐谷を引き止めて、俺は首藤さんに向き直る。 「…冗談…じゃないですよね?」 「はい。」 「好きって言うのは、その、恋愛的な……?」 「はい。 まぁ、誰かをそういう意味で好きになったことないんで分かんないですけど、多分。」 曖昧……。 「なんでそう思ったんですか?」 「なんとなく。 今さっき天宮さんを見て、なんとなく思いました。」 「……なんとなく。」 「別に付き合って欲しいって言うわけじゃないので。ただ俺はそう思ったってだけで。」 「はい。」 「多少気にするようになればいいなとは思いますけど、気にしないでください。」 「……え?」 「じゃあ俺はこの後バイトなので。」 また、と言って去っていった首藤さんの後ろ姿を見ながら、まだ全く状況を掴めていない自分がいた。

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