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第21話

【首藤 廉 side】 水曜日一限。 他の人には目もくれずに俺の隣に座って、笑顔で話しかけてくる彼。 俺は相槌を打つか、軽い返事をするくらいだったけど、彼は懲りずに話しかけてくれた。 うるさいのは苦手だけど、不思議とそういうわけでもなく、自分から関係を築きにいくのが苦手な俺にとっては、いい意味でとても都合のいい人だった。 彼は桐谷さんと呼んでいる人とは親しいように見えたけど、その人以外とは笑顔で話していてもどこか一線を引いている感じだった。 なのに俺にはよく話しかけてくれて、さらに毎週バイト先まで来てくれる。 バイト先ではたくさん話しかけてくるわけでもなく、カウンターに座って、コーヒーと、たまに軽食を注文して、静かに本を読んでいることが多い。 俺がカウンター内で作業している時に、ふと思い出したように話しかけてくることもある。 その程よい距離感が心地よくて、彼のいるバイト先はいつも以上に居心地が良かった。 好きとか嫌いとか考えたこと無かった。 「廉ってさー、きいちくんのこと好きでしょ。」 奏汰が唐突にそんなことを言ってきたのが悪い。 「は?何の話。」 「だからー、友達でも後輩でもなく、恋愛対象として、きいちくんのこと好きでしょ?って。」 「いやいや。」 「うそつけー。 俺ときいちくんが話してるの怖い顔で見てるくせに。」 「別にそんなことない。」 「笑った顔みて可愛いって思ってるくせにー。」 「あぁ、まあそれは。」 「こいつ名前呼びしやがって馴れ馴れしいなって思ったくせに。」 「ほんとにな。」 「やっぱり思ってたんだ。」 「でも別に好きじゃない。 人としていい人だとは思うけど。」 「じゃあ俺がきいちくんのこと好きだって言ったら?」 「彼女居なかったか?」 「あの子とは別れたよ。だから俺がきいちくんのこと好きって言っても止めないよね?」 「勝手にすればいい。」 「嘘じゃないよ?本当に気に入ってる。ほら、彼綺麗な顔してるし。」 「そうか。」 「廉ちゃぁ〜ん。慣れない嘘はつかない方がいいよ?顔に出てる。 それか自覚してないのかな?」 「どういう意味?」 「なんでもないでーす。」 奏汰とそんな会話をしたせいで、天宮さんが店に来て、考えてしまった。 なぜ奏汰がそう思ったのか。 「ん?俺の顔になにかついてますか?」 「いえ、何も。」 「じゃあ他に何か気になることでも?」 「いえ。すみません。 ただ綺麗な顔をしているなと思って。」 これは嘘ではない。以前から思っていたことだ。 「えっ、そんな急に……? 褒めても何も出ませんよ……?」 予想外の言葉だったのか、顔を真っ赤にする天宮さんを見て、可愛いと思う。 「別に何も望んでいませんよ。 読書の邪魔をしてすみませんでした。」 「いえ。それは全然。」 これを好きというのかはわからないが、彼が奏汰でも他の人とでも付き合う事を想像したら、そこのポジションには自分がいたいと思う。 というよりは、自分がそこに居られないとしても、他の人がいるのは不愉快だ。 奏汰には思ったことがないから、友情という枠には当てはまらないのかもしれない。 けどこれが、奏汰のいう“好き”かはわからないのが正直なところ。

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