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第25話
【首藤廉 side】
今日は水曜日。
夏休みのように来てくれるのであれば、もうそろそろ天宮さんが来る時間だ。
ふと外を見れば、天宮さんが入口に手をかけていた。
「きいちくんだ!」
俺の前に座る奏汰が嬉しそうに声を上げる。
何気にきいちくん呼びしているのは気に入らない。
「こんにちは。」
「そちらはお友達?」
「はい。」
「桐谷です。」
よく天宮さんといる人。
ここに一緒に来るのは初めてだな。
あぁ、この間俺があんなこと言ったからひとりで来づらかったかな。
「どうも〜、藤奏汰です。
廉の友達で、最近きいちくんとも仲良くなってきたかな、と思ってる。」
「今日はテーブル席にしますか?」
「そうします。」
せっかく友達を連れてきてくれているのに、そんなのお構い無しに奏汰がまた絡みそうだったから、いつもと違ってテーブル席に案内する。
「きいちくんが友達連れてくるの初めてだね?」
「あぁ。」
「やっぱり類は友を呼ぶっていうの本当なのかな。桐谷くんもイケメン。ねっ?」
「あぁ。」
「何。廉、不機嫌なの?
お気に入りのきいちくんをとられて?」
「別に。」
「ふーん?そんなに好きなんだ?」
「あぁ。」
けど不機嫌ではない。
「うわぁ、知ってたけどからかい甲斐がない。」
「そんなのなくていい。」
「振られたらいつでも話聞いてあげるからね。」
「結構。」
「えー、せっかく俺が優しさで言ってるのにぃ。」
「俺が天宮さんにそういう意味で好かれるとか、普通に考えて有り得ないだろ。」
「そんな事ないよ。
廉は、見た目はもちろん完璧で、優しくて、珈琲いれるのが上手い。そしてさらに頭も良いし、家事完璧だし、結構友達思いだし……。」
「はいはい。ありがとう。」
いつまで経っても終わりそうにない奏汰の言葉を途中で遮って止める。
多少うるさいけど、こうやって何だかんだ気にかけてくれるのが奏汰で、本当に良い奴だと思う。もう少し口数が減ればなお良し。
天宮さんの方を見てみると、桐谷さんと何か小声で話しているようだった。
俺の方をチラチラ見ているような気もするけど、やっぱりこの間のことを気にしているんだろうか。
何も考えずに言ってしまったけど、申し訳ないことをしたかもしれない。
「奏汰。」
「ん〜?」
「注文とってきて。」
「え、なんで俺が。」
「今店に店員が俺しかいないから。」
「普通に廉が行けばいいんじゃないの?」
「天宮さんは多分、俺と話したくないだろうから。」
「なんで?そんな事ないでしょ。」
「いいから行って。」
「はいはい。」
奏汰は、なんで?という顔をしながらも、注文を取りに行ってくれた。
「ありがとう。」
「いいけど、なんで?なんかあったの?
きいちくんもいつもより廉のこと気にしてるみたいだったけど。」
「まぁ。俺がちょっと……。」
「ちょっと?」
「好きって言った。」
「は?どういうこと?」
「そのままの意味だけど。」
「告白したの!?」
「そういうことになると思う。」
「何その曖昧な感じ。
いつどこでどうやって告白したの?」
「普通に大学で、話の流れで?」
「そうだよね。廉だもんね。
告白しようかなどうしようかな、みたいな悩みとかないよね。うわそんな恋バナしたかったぁ!
それでそれで?返事は?」
「もらってない。そういうつもりで言ってないから。」
「なるほどねぇ。
それで廉は、きいちくんが廉と話すの気まずいんじゃないかと思ってるわけだ。
きいちくんはきいちくんで、思ってもみなかった人から告白されてどうしていいかわかんないんだねぇ。」
「そういうとこは理解が早いな。」
「まあね。
とりあえず、それは廉が持っていってね。
せっかく来てくれてるんだし、少しはきいちくんと話してきなよ。」
奏汰は、天宮さんのテーブルに出すために用意したものたちを指さして言う。
「あぁ。」
俺はお盆を持ってカウンターを出た。
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