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第26話

【天宮きいち side】 「首藤さん来たら俺席立つから。」 「え、なんで?」 「こういう時は早めに話しておかないと、ずっと気まずいままになるじゃん。」 「……確かに。」 「頑張って。」 「うん。」 「おまたせしました。」 少しして、トレーを手に首藤さんがやってきた。 「ありがとうございます。」 「あの、俺トイレ行きたいんですけど。」 「それならあちらに。」 「ありがとうございます。」 桐谷は聞いてすぐ席を立って、その場からいなくなる。 少しの沈黙の後、何を話そうか迷う俺より先に、首藤さんが口を開いた。 「昨日の事、本当に気にしないでください。 つい口から出ただけで、言うつもりもなかったですし。」 「……はい。」 そしてまた沈黙……。 「きいちくんさー、1回でいいから廉とデートでもしてあげて。 廉、もうすぐで誕生日だし、誕生日プレゼントだと思って。」 俺たちの雰囲気に痺れを切らしたかのように、藤さんが割って入ってきてくれた。 「すぐ余計な事言う。 天宮さんにそこまで迷惑かけるつもりないんで、安心してください。」 別に迷惑なんかじゃない。 告白も素直に嬉しかったし。 「いえ、行きましょう。」 「気使わなくていいですよ?」 「そんなんじゃないです。 デート……っていうか、また首藤さんと出かけたいなって思ってたから。」 「俺に好かれてるのに、不快じゃないですか?」 「えっ、なんでですか? 好かれてるのは素直に嬉しいですよ。気持ちに応えられるかは別ですけど……。」 「よかった。安心しました。」 いつもと変わらないように見えてはいたけれど、多少気を張っていたのか、硬かった首藤さんの表情がふっと解けて、穏やかな表情に変わる。 「すみません。首藤さんはいつも通りなのに、俺が気まずい雰囲気出しちゃったから、やりづらかったですよね。」 「そんな事ないですよ。 急にあんなこと言って申し訳ないとは思ってましたが、俺の言ったことを気にしてくれていたのは、むしろ嬉しいです。」 「廉、多分そういうとこ。」 少しの間黙って見守っていた藤さんが、首藤さんに向かって言う。 「え、何が?」 「そういうこと言うと、きいちくんが廉と接しずらくなるんだよ。」 「え?」 「廉は正直がすぎるってこと。まあそこもいいとこなんだけど……。」 「ふふ、もう大丈夫ですよ。今ので首藤さんの発言、気にしすぎなくていいんだなって思えました。」 あきれた顔の藤さんと全然わからないって顔をしてる首藤さんをみてると、いつもと立場が逆に見えて、なんだがおかしくなってきて思わず笑ってしまう。 「……きいちくんもそういうとこだぞ。」 「え、何がですか?」 「似た者どうしすぎん?さっさと付き合えば?」 はぁーっとため息をついた藤さんは、こっちのことは放って、いつの間にかトイレから出てきていた桐谷に絡み始める。 「すみません、奏汰が。」 “付き合えば?”のことを言っているんだろう。 「いえいえ。 あの、誕生日っていつなんですか?」 「10月5日です。」 「え、もう4日しかない!」 「あぁ、奏汰の言ったことは気にしなくていいですよ。」 「いえ!お祝いさせてください。お祝いしたいんです! 欲しいものとかありますか?あんまり高いとあれだけど……。」 「奏汰の言う通りにしてるみたいで癪だけど、物よりも、天宮さんの時間が欲しいです。 天宮さんが時間に余裕があって、嫌じゃなければ。」 「そんなのでよければいくらでも。俺も首藤さんと居るのは好きなので。」

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