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第29話
【首藤 廉 side】
奏汰のおかげ?で天宮さんと一緒に出かけることが出来ることになった。
春夏から、天宮さんが新しく出来た水族館に行きたいと思っている事と、好きな食べ物が肉という事だけは聞いていたため、それをもとに予定を組んだ。
天宮さんはあまり大人数でいることはないし、店でも奏汰が来なければ、静かに本を読んでいることが多い。
だからきっと落ち着いた雰囲気の所が好きなのだろうと、静かに食事ができそうな所も幾つかピックアップしておいた。
「首藤さんが肉にがっついてるイメージが出来ないです。」
「肉よりは魚派ですね。」
「え、じゃあなんで焼肉に?」
「そういう気分の日もありませんか?」
「あります。そして丁度俺も焼肉の気分です。」
「良かったです。
足りなければ追加で注文してくださいね。」
「はい。ありがとうございます。」
美味しそうに食べる天宮さんは可愛い。
甘いものも好きなようで、店でも甘いものを度々食べているけど、その時も幸せそうな顔をしている。
「……そんなに見られると食べにくいです。」
「すみません、つい。」
「つい?」
「美味しそうに食べる姿が可愛いなと思いまして。」
「またそれですか。」
とは言うけれど、俺が可愛いという度に照れているのが、目に見えてわかる。
特に意識してなかった発言にもしばしば照れる様子を見せてくれて、その様子を見てまた可愛いと思う。
誰かに対してこんなに可愛いと思うのは、春夏がまだ小さかった頃以来だろう。
もちろん天宮さんに感じる可愛いとは別の種類のものだけど。
自分が天宮さんの事を好きなことは自覚していたけれど、まだなんとなく好きな程度に思っていた。
そんなに必死にというわけでもなかったけど、こういう姿を他の人に見られるのは嫌だと感じる。
俺のせいではあるけど、あまり可愛い姿を見せないで欲しい。
もっと好きになってしまいそうだし、そうなると天宮さんも迷惑だろう。
「あ、そうだ。
これ、誕生日プレゼントなんですけど、よかったら……。好みじゃなかったらすみません。」
会った時から紙袋をずっと持ってるなとは思っていたけど、俺の誕生日プレゼントだったのか。
会ってすぐ渡さないのも、荷物が増えないよう気を使ってくれたんだろう。
「今日一日空けてくれたので十分だったのに。
すみません、気を使わせてしまったみたいで。」
「そんな事ないです。いつもお世話になってるので、俺が何かプレゼントしたかったんです。」
「開けてもいいですか?」
「はい。」
綺麗にラッピングされたそれを開けると、マグカップがあらわれた。
パッと見シンプルだけど、よくあるカップとは少し違った形をしている。
実際に持ってみると、よく手に馴染んで、なんかわからないけど気持ちいい。ずっと持っていたいような感じがする。
「いいですね、これ。すごく気に入りました。」
「よかった。春夏さんから毎朝コーヒーを飲んでるって聞いたので、それなら使って貰えるかなって。
あ、もしお気に入りを使ってるとかであれば、そっちを使ってください。」
「いえ、今のカップは特にこだわりはないので。
明日から使いますね。」
「ぜひ!」
「素敵な物をありがとうございます。
天宮さんの誕生日っていつですか?」
「俺は6月です。6月18日。」
「覚えておきます。」
「その時は俺が奢るので!」
「はい。楽しみにしてます。」
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