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第31話
11月も半ば。
春夏さん伝いに、首藤さんのバイトのシフトが不定期になっていることを聞いて、最近は喫茶店に寄ることが減っていた。
あそこの雰囲気は好きだし、店長さんもいい人なんだけど、何となく首藤さんが居る時がいいなという気持ちがある。
だからもう1ヶ月くらいは会っていない。
まあ恋人でもないし別にいいんだけど。
「天宮おはよう。
何、悩み事?ぼーっとしてるけど。」
「おはよう。
いや、なんでもない。」
「首藤さんに会えなくて寂しいとか?」
桐谷には、どこかの話の流れで、首藤さんが喫茶店にあまり顔を出していないことを言っていた。
「寂しいか。寂しいのかな?俺。」
「いや俺は知らないけど。
ほぼ毎週会ってたし、そうなのかなって思っただけで。」
「確かに何か物足りない感はあるけど……。」
「連絡は?」
「用がないのに連絡するのもな、って思って。」
「恋する乙女かよ。」
「別にまだ恋ではないような……。」
「例えだよ。
まあまずは連絡取って、会えるなら会ってみたら?
会ってみてぼーっとしなくなれば、寂しかったってことじゃない?」
「確かに。
でも、なんて送れば……?」
「それは自分で考えて。」
「はい。
ちなみに恋っていうのはどういう気持ちになれば恋……?」
「んー、人によるとは思うけど、会ってない時でもずっと考えちゃうとか。あとは、他の人と付き合ったら嫌だな〜、とか?」
「なるほど。」
会ってない時でも考えてしまうのはあるかもしれないけど、首藤さんが藤さんと春夏さん以外の人と話すのをほぼ見た事がないから、後者はあまり想像できないな。
……恋愛って難しくない?好きって何?
「ま、そんなの考えなくてもどこかのタイミングで、これが好きか、って腑に落ちるときが来ると思うよ。」
「桐谷はどのタイミングでそうなったの?」
「俺は、ある時にふと、本当に突然、めちゃくちゃ可愛いなって思って、これが好きかって気づいた。」
「俺も首藤さんのこと、かっこいいなって思うよ?」
「いやまあそれは俺も思うよ。実際見た目がもうかっこいいからな。
けどそういうのじゃなくて、なんて言うんだろうなぁ。
もはや意識して口閉じてないと、ひたすらかっこいいって口からこぼれてしまうくらいかっこいい、ってなる感じ?」
「なんだそれは……。」
「“かっこいい”じゃなくて、“可愛い”かもしれないし、“好き”かもしれないけど、そのうち堪らなく感情が湧き上がってくる感じがあるから。きっと。
なかったら、首藤さんじゃなかったって事だと思う。」
「わかった。」
「まずは連絡からだね。」
「うん。」
桐谷に言われるまま、首藤さんとのトーク画面を開く。
いろいろ悩んだ結果、“春夏さんから忙しいと伺いましたが、体調崩したりしてないですか”と送った。
「送った。
けどこれ大丈夫かな?忙しいって分かってるなら用事ない時に連絡してくるな、ってならない?」
「いや何それ。ならない。
ましてや首藤さんは天宮のこと好きって言ってるんだよ?そんなことはありえない。」
「そうかな。」
その日の夜、首藤さんから返事がきた。
返事がこなかったらどうしようと思っていたから、ひと安心。
“ご心配ありがとうございます。
忙しいですが元気です。
天宮さんこそ体調崩したりしてないですか?”
“俺も元気です。”
“よかった。
来週は水曜にバイト入ってるので、良ければ店に来ませんか?”
“もちろん行きます!”
“待ってます。”
タイミングがよかったのか、ぽんぽんっとやり取りができた。
パッと見は、心配していたようにうざがられてもなさそうだし、来週には久々に首藤さんに会えることに、少し楽しみな自分がいる。
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