「あ！きいちくんだ〜！久しぶり！」 「藤さん。お久しぶりです。」 「廉が寂しがってたよ〜。最近顔見てないって。」 「奏汰。」 「えー、ほんとのことじゃん。 あ、それとも、俺らの時間邪魔するな的な？」 「両方。」 「うわ、正直。 じゃあ俺あっち座るからごゆっくり〜。」 急に賑やかになったと思ったら、またすぐに静かな空間に戻った。 「寂しかったんだ……？」 「まぁ。」 「俺もそうかも。」 「え？」 「桐谷に、首藤さんに会えなくて寂しいのかって聞かれて。 その時はよく分かんなかったけど、今日こうやって会えて、もやもやというかそういうのが無くなって、俺首藤さんに会いたかったんだな〜って。」 そう言って顔を上げると、びっくりした顔で固まっている。 「どうしたんですか？」 「嬉しさと、驚きと、天宮さんが可愛すぎるっていう感情が一気に来ました。」 「ふふ。そんな顔初めて見ました。」 「初めてこんな気持ちになったので。 天宮さんといると、今までわいたことなかった感情が度々わいてきます。」 「わかります、それ。 俺も無意識に興味をひかれたのは、首藤さんが初めてだったので。」 「俺なんかに興味を持ってくれて嬉しいです。」 「えー、みんな興味あると思いますよ？」 「言い直しますね。 天宮さんに興味を持って貰えて嬉しいです。 飽きられないよう気をつけますね。」 「いやいや、飽きるとかないですよ。」 「そうだといいな。 そしてあわよくば好きになってくれませんかね？」 「それは……ちょっと、わかんないです。」 そんなことを言われるとは思ってなかった。 会話も態度も今まで通りすぎて忘れてたけど、そういえばこの人、俺のこと好きなんだった。 「嘘です。嘘じゃないけど。 天宮さんが俺と会って話してくれて、俺はもうそれで十分満足なので。それ以上が有り得るとか思ってないです。 なので安心してください。」 「安心……。」 「はい。」 「……はい。」 好意を抱かれて、それ以上を期待されて、だからといって不安とか不快とかそういう感情はない。 そんな淡々と、まるで当たり前の事のように先を期待していない発言をするのは、俺がこうやって言うのも違うけど、なんか悲しい。 「すみませーん。」 「はい。」 他のお客さんに呼ばれて、その場から離れる首藤さん。 いつもの真顔だけど、注文を取る首藤さんを見るお客さんたちの目はハート。 多分俺と同じ年齢くらいの女の人2人組。 綺麗な人たちだけど、首藤さんにとってあの人たちは、ただのお客さんで、それ以上の感情はないんだろう。 そんな人が俺のことが好き。 どういう気持ちで言っているのかわからないけど、多分あの子たちが言われたいであろうような事はよく言われる。 「首藤さんは女の人じゃなくていいんですか。」 不躾だと思ったけど、今ふと思ったことを、カウンター内に戻ってきた首藤さんに問いかけた。 ちょっと考えた顔をしてすぐ、いつもの顔に戻る。 「今聞かれるまで考えたことなかったです。 俺はただ、天宮さんの事が好きだなと思っただけなので。 言われたら確かにそうですよね。男に告白されるなんて、不快でしたね。」 「いえ！そんなことないです！そういう意味じゃなくて……。 今ふと疑問に思っただけで、首藤さんが男とか女とかで悩んだことも、不快に思ったこともないです！」 「はい。 そういうところも好きです。」 また正直に思ったことを口に出す。そしてふわっと笑った。 それを見て、安心したのと同時に、若干の息苦しさを感じた。