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第35話
あれから桐谷の言ってたことを考えてみたけど、よく分からなくて、未だにもやもやしたまま。
今日は水曜日でもないし、首藤さんがいるか分からないけれど、なんとなく喫茶店に来てみた。
お店に入ろうとドアノブに手をかけたとこで、店内に首藤さんを見つけた。
いつもはカウンター内でもくもくと作業をしていることが多いのに、今日の首藤さんは、おそらくお客さんであろう人と楽しそうに話していた。
それを見て、なんかもやもやっとして、入るのをやめて引き返す。
よく分からない苛立ちを覚えたまま、早足で自分家の方向へ歩みを進めていたけど、後ろから声をかけられて足を止める。
「今日は入らないんですか?」
首藤さんの声。
イライラしてるのを気づかれないように、できるだけ普段通りに。
「……はい。予定があったのを思い出して。」
「そうでしたか。」
思ったよりあっさり引かれて、沈黙が流れる。
「何かありましたか?」
「……何も。」
「そうですか。
あっ、お昼食べました?まだなら何かお店から持ってきます。」
「大丈夫です。食べました。」
「それならよかった。
あの、もし予定までの時間に余裕があったら、少し待ってて貰えませんか。家まで送って行きたいので、店長に休憩貰えるよう言ってきます。
ちなみにこれは、心配2割の下心8割です。」
首藤さんはいつもと変わらない態度で、変わらない優しさをくれる。
俺は誤魔化すの下手すぎて、絶対イラついてるのバレてるのに。
いまやっと、桐谷が言っていた言葉の意味が分かった。
俺、首藤さんが恋人を紹介してくるのは嫌だ。
そんなの見たくも聞きたくもない。
「待ってます。」
「ありがとうございます。」
首藤さんは駆け足で喫茶店に戻ったと思えば、片手に紙コップを持ってすぐに戻ってきた。
「行きましょうか。」
「はい。」
「これ、良ければ。
丁度他のお客さん用に容れてたんで、ちゃんと容れたてです。」
首藤さんは持っていたカップを俺に手渡す。
「えっ!?
さすがにそれはその方に悪くないですか?」
「むしろその人に持っていきなって言われたので大丈夫です。
それに天宮さんの好みも外してないと思います。」
「……ありがとうございます。
あっ、じゃあお金を……」
「いりませんよ。送らせてもらうお礼みたいなもんです。」
「普通逆じゃないですか?送って貰ってお礼するのは俺なのに。」
「俺がしたくてしてるので。
貰ってください。」
「……じゃあお言葉に甘えて。」
「はい。」
「ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
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