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第36話
「……あの。」
ふとさっきのことを思い出して、俺は少しの沈黙を破った。
「はい。」
「俺のこと好きですか。」
急に好きな人とか言われても困るから、一旦前段階として聞いておきたい。
「?はい。」
「本当に?」
「はい、好きです。」
「さっきの人は?」
「さっきの……?
あぁ、さっき店で話してた人なら母です。」
「お母さん!?」
「はい。仕事が休みだから、俺の働きぶりを見に来たとか。」
何回かしか会ったことない上に後ろ姿だから気づかなかった……。
あと動揺してそれどころじゃなかったのもある。
じゃあ俺、お母さんに対してもやもやしてたってこと?
……恥ずかしい。
そんな理由があったなら、首藤さんが楽しそうにしていたのも納得だ。
もやもやがなくなったところで、丁度よく家に着く。
「じゃあ俺はこれで。」
「天宮さん。」
「はい?」
「俺、本当に好きですよ。天宮さんのこと。」
鍵を取り出したタイミングで改まった様子で言われて、急なことに照れてしまう。
「……はい。」
「好きです。」
「……分かったって。」
「ならよかった。」
ふわっと笑う首藤さんの笑顔に胸が締め付けられる。
さっき気づいた。
この笑顔は、俺にだけ向けて欲しい。
「首藤さん、もっかい言って。」
「もう1回……?」
なんのことか理解できないようだったけど、察してくれると願って次の言葉を待つ。
「好きです……?」
「……俺もです。」(小声)
だいぶ小さい声ではあったけど、きっと聞こえてはいるだろう。
「……え?どういう……え?」
「じゃあ俺はこれで!」
「待って。」
慌てて家に入ろうとするところを、手を掴んでとめられる。
「俺と付き合ってもらえませんか。」
急に冷静になった様子の首藤さんに勢いよく言われる。
状況の飲み込み早っ……。
「……はい。」
「えっ、本当にいいんですか?」
「本当にって……、分かって言ったんじゃないんですか?」
「よく分からないけど半分賭けみたいな……。最初から望みないと思ってるから、振られたら振られたでよかったし。」
「なにそれ。」
「でも本当に俺の恋人になってくれるんですか?」
「はい。」
「嬉しすぎる。」
今まで見た事ないくらいの満面の笑み。
お店に立つ日は髪を上げてるから、そんな日にその顔はずるすぎる。
「天宮さんの予定って何時に終わりますか?
もし時間があれば、予定が終わってまた会えませんか。」
「いや、あの、本当は予定とかないんです。
首藤さんの様子を見て入りづらいな、と思って咄嗟に言い訳しただけで。」
「そうだったんですね。」
「だから、ここまで送ってもらってなんですが、お店寄っていってもいいですか?
それでもし良ければ、首藤さんがバイト終わるまで待っててもいいですか?」
「もちろんです。
あ、けど、バイト終わるまでに割と時間あるので、待たせてしまうかもしれません。」
「大丈夫です。
読書して待ってます。」
「ありがとうございます。
そういえば、俺が天宮さんのこと好きなことが母にはバレてるので、何か言ってきたらすみません。」
「えっ、何でですか!?恥ずかしい……。」
「春夏に、先生のこと好きでしょ?って聞かれて正直に答えたら、それを母もこっそり聞いてたらしくて。」
「正直にも程がありますね……。」
「すみません。」
「いえ。そこも……はい。いいと思います。」
「ありがとうございます。」
ニコニコというか、ニヤニヤという表現の方が正しそうな顔で俺を見てくる首藤さんは、今までで一番楽しそうな嬉しそうな表情だった。
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