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第38話

18時。 喫茶店に戻ってきて2時間ほど経った。 今日のバイトはもう終わりらしく、さっき首藤さんが裏に着替えに行ったところ。 「お待たせしました。」 「お疲れ様です。」 「店長、お先に失礼します。」 「はーい。お疲れ。」 俺も店長さんに会釈をして、2人で店を出る。 「日が落ちるの早くなってきましたね。 寒くないですか?」 「大丈夫です。」 「よかった。」 首藤さんの家には家庭教師で毎週行っているのに、この時間帯に行くことも、お母さんが居る時に行くこともないから、緊張してきた。 「どこで好きって思ってくれたんですか、って聞いてもいいですか。」 俺の緊張を知ってか知らずか、間を開けずに話題を振ってくれる。 「……ついさっきなんですが、首藤さんが他の人にニコニコしてるのを見てもやもやして。これでさらに好きなんて言ってたら、嫌だなって思ったんです。」 「そういうことか。 だから話してた人が誰か聞いたんですね。」 「はい。」 「俺家族と天宮さん以外にニコニコしたことも、好きって言ったこともないですよ。」 「藤さんは?」 「アホすぎて笑っちゃうことはあります。 けど、好きは友達にわざわざ言わないですよ。」 「そっか。」 「嫉妬してくれたんですね。嬉しいです。」 「首藤さんのお母さんとは気づかず……、恥ずかしながら。」 「後ろ姿じゃ分からないですよね。 でも俺的には良かったですよ。付き合えることになったし。母に感謝ですね。」 「そこに関してはそうですね。」 「まさか天宮さんと付き合えるなんて思ってもみなかったので。」 「俺もまさか首藤さんに好かれるとは思ってもみなかったです。」 「俺も最初は思ってなかったんですけどね。今はもう好きですよ。」 「……知ってます。」 「でも、無理しなくていいので、やっぱり違ったなって思ったら教えて下さい。」 「そんなこと……。」 俺の態度がそうさせているのかもしれないけど、始まった日に終わりを考えているなんて、寂しすぎる。 「先のことは分からないじゃないですか。だから一応言っておくってだけです。 もちろん、天宮さんが俺にハマってくれて抜け出せなくなる可能性もありますけど。」 「首藤さんが違ったなってなる可能性は?」 「ないですね。 俺は1度ハマったらのめり込んで抜け出せないタイプなので。」 「首藤さんは既に俺にハマってるんですか?」 「はい。可愛いって底なし沼なんです。知ってました?」 「知らないです。どういう意味ですか?」 「可愛いって思い始めると、もう何でも可愛く思えてきて、収拾つかなくなるんです。」 「なるほど?」 「ふふ、分かんないですよね。俺もこんなの初めてです。 人間ってこんな気持ちになれる生き物なんだ、って思ってます。」 そう話す首藤さんは、楽しそうで、幸せそうだった。 俺も桐谷にこんな顔で首藤さんのことを語っているんだろうか。 だとしたら、首藤さんのこと好きだろ?って言われるのもわかる。 ということは、俺ももう既に首藤さんにハマってしまっているんだろうか。

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