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第40話

「天宮くん、今日はありがとう。」 「こちらこそありがとうございます。 ご馳走様でした。」 「また来てね。」 「はい。」 「じゃ、廉ちゃんと送り届けてね。 あ、遅くなってもいいからね?」 「はいはい。」 俺は首藤さんと共に首藤宅を出る。 外は真っ暗で、人も全然いない。 「毎回送ってもらってすみません。」 「いえいえ。その分長く一緒に居られるので。」 「そうですね。それは俺も嬉しいです。」 「あの。」 「はい。」 「もし嫌でなければ手を。」 繋ぎませんか、ということだろう。 首藤さんは俺に近い方の手を軽く前に出してみせる。 多少の緊張もあったが、俺はその手を取った。 「首藤さんの手、温かいですね。」 「さっきまでポケットに入れて温めてました。 天宮さんは冷たすぎます。手袋とかしないんですか?」 「んー、手袋とかマフラーとか、煩わしく感じてしまって。」 「よかった。」 「ん?何がですか?」 「天宮さんの手を温めるという口実で手が握れるし、身体を温めるという口実で抱きしめられるな、と。」 「それ言っちゃっていいんですか?」 「正直者だから仕方ないんです。 気が乗った時は俺の嘘に付き合ってください。」 「はい、いつでも。 その代わり俺の嘘にも付き合ってください。」 「どんな嘘ですか?」 「んー、今朝ゴキブリが出たので、部屋に居ないか確認してください。」 「ふはっ、いいですよ。 ゴキブリ出たんですね。」 「はい。もうそれはそれは大きいやつが。首藤さんくらいあるかも。」 「それはさすがに怖いですね。182cmのゴキブリ……。」 「うわ、想像したくない。」 「同じくです。想像するのはやめましょう。」 「はい。」 そんな冗談を言いつつ歩いていると、歩いて30分はあるであろう距離が、ほんのわずか数分に感じる。 「本当に寄っていってもいいんですか。」 「はい、首藤さんが良ければ。」 「前回とは違って恋人という立場ですが。」 「もちろん分かってます。 あっ?あー、やっぱりそう考えるとまずいかも。」 幻滅されるかもしれないレベルで部屋が汚すぎる……。 「じゃあ今日は帰ります。」 少し落ち込んだようにも見える顔をしてそう言う。 「そういう事じゃなくて!部屋が汚すぎて……。 あっ、いや、そういう事を期待してる訳でもないんですが……、あ、かといってしてない訳でも……。」 何を言ってもなにか誤解されそうで、どう言えばいいのかわからない。 「あぁ。そういうことなら前回ある程度は見ましたが。」 「……確かに。」 「大丈夫ですよ。 そんな事でイメージダウンとかないので。なんなら片付け手伝います。」 「じゃあ……、どうぞ。」 前回よりも汚い気もしなくもないが、片付けてくれるなら助かる、なんて若干思いつつ、部屋にあげる。

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