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第41話
「本当にゴキブリ居そうですね。」
そこら中に散らかっている俺の服を回収しながら、首藤さんは呟く。
「居たら助けてください。」
「本当に苦手なんですね。」
「はい。飛ぶやつは行動が予測不能だから。」
「なるほど。
あの、洗濯機の中のものは?」
「洗って乾燥済みです。畳むのがめんどくさくてそのままになってます。」
「服をしまえるところは?」
「それならここに。」
クローゼットを開けて、中に置いてある引き出しを指さす。
まあほぼ使ってませんが。
「俺がしまっても大丈夫ですか?」
「はい。むしろお願いします。」
何をしていいかわからずわたわたしているうちに、どんどん部屋が綺麗になっていく。
「すごい。あっという間ですね。
首藤さんって何か苦手なことあるんですか?」
「親しくない人とのコミュニケーションですかね。」
「あぁ……、確かに。」
最初の俺の一方的な会話が想像できないくらい、今はたくさん話してくれるから、すっかり忘れていたけれど、そういえばそうだった。
「あと、絵とか歌とかその辺り苦手です。」
「意外。何でも出来ちゃうように見えてました。」
「いやいや、そんなことないですよ。できないこともたくさんあります。
天宮さんの苦手なことは?」
「料理、片付け、早起き、マルチタスク、あと計画立てるのも苦手です。」
「最初3つは知ってましたが、後2つは新発見です。覚えておきます。
ちなみに俺も、最初は天宮さんがなんでも出来ちゃうような人に見えてましたよ。コミュ力も高いし、人気者だし。」
「それを言ったら首藤さんも人気者でしょう?」
「ただ見た目が好みって理由で寄ってくる人が多いだけですよ。」
「カッコいいですもんね、首藤さん。」
「そう言われるのが嫌で髪も伸ばしてみたんですが。それも大して意味なかったみたいです。」
「えっ、すみません。」
「天宮さんに言われるのは嬉しいです。
ただカッコいいって言われると、勝手に期待されてる気がして嫌だったってだけで。
昨年の学祭も勝手に応募されて。」
「俺は中身も含めてカッコいいと思ってます。
こうやって家まで送ってくれるとこも、正直に思ってること言ってくれるとこも、家族想いなとことか、全部含めてカッコいいです。」
「ありがとうございます。嬉しいです。」
「ちなみに、首藤さんの顔面の良さは、髪の長さでは誤魔化せないです。
逆にその髪型で無口だと、ミステリアス感増してむしろ良い。前髪上げた時なんかは、大人のエロさ的なものがありますね。」
「そんなふうに思ってたんですね。」
ふと、俺の方を見たと思えば、畳んでいた服を置いて近づいてくる。
今日はバイト終わりで前髪を上げているから、顔が良く見える。
「……なんですか?」
「あまりにも褒めてくれるので、少しその気になりました。」
「えぇ。」
確かに家に入れる時から多少の期待はあったが、急すぎて心の準備が出来てない。
どうしようかとただ見つめていると、それを察したのか微笑みが返ってくる。
「大丈夫。なにもしませんよ。」
軽く頭をぽんっと叩いたと思うと、片付けに戻った。
安堵もあったが、同時に本当に何もしないんだ、と残念な気持ちもあった。
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