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第42話

23時頃には送って貰っていたはずが、いつの間にか日付が変わっていた。 「割と片付きましたね。」 「ありがとうございます。 遅くに寄らせて片付けなんかさせてすみません。 時間大丈夫ですか?」 「大丈夫ですよ。明日は特に予定もないので。 俺の方こそ遅くまですみません。」 「いやいや!助かりました。 俺も明日は何もないですし、大丈夫です。」 「よかったです。 そろそろ帰りますね。」 「片付けさせるために寄らせたみたいで申し訳ないです……。」 「片付けるの嫌いじゃないのでいいんです。 天宮さんと1時間一緒にいられたことを考えると、むしろこれだけ片付けただけじゃ足りないくらいです。」 「でも俺、首藤さんと1時間一緒に居たけど、何もしてないですよ?」 「まあまあ。本当に気にしないでください。」 「でも。」 「じゃあ、はい。」 そう言って手を広げる首藤さん。 これは、来い、という事だろうか? 「えっと……?」 「1時間分の報酬は、天宮さんから抱きしめられに来てくれるハグ、ということで。どうでしょう?」 「1時間分の価値があるでしょうか。」 「もちろんです。」 「じゃあ……。」 結構恥ずかしいけど、そう言われては断れない。 意を決して、首藤さんに歩み寄る。 首藤さんともう少しで触れるというところで、その腕に抱きしめられた。 4cm程の身長差では、あまりにも顔の距離が近すぎる。 心臓がバクバクしている。 どうか聞こえてませんように。 「天宮さん、大変です。」 「どうかしましたか。」 大変なのは俺もだ。 距離が近いせいで声もすぐそばで聞こえて、これは心臓に悪すぎる。 「今までの人生の中で1番幸せを感じているかもしれないです。」 「そんなに?」 いやでも、俺もそうかもしれない。 「天宮さん本当に好きです。」 抱きしめられている腕の力が強まるのがわかる。 「はい。俺もです。」 「心臓の鼓動速すぎて俺今日死ぬかもしれない。」 俺もさっきの好きって言葉で余計鼓動が速まって、いまにも死にそうです。 口には出さないけど。 「そろそろ……。」 「まだ、もう少しだけ。」 「……はい。」 苦しくない程度に強く抱きしめられて、耳元で好きな人の声が聞こえて、好きって言われて、ちょっと気持ちが追いつかない。 「これ以上こんなふうにしてると帰れなくなりそうなんで帰ります。」 もう少しって言われて本当に少しだけそのままでいると、急に思いたったように離れて、急いで玄関に向かう。 俺もその後ろに続いて玄関まで向かった。 「俺が出たら鍵閉めてくださいね。」 「はい。」 「そんな顔しないで。またすぐ会えますよ。」 そう言って頭を撫でてくれる。 寂しいなと思っているのが顔に出たのだろうか。 「明日は?」 「明日?」 「何もないって言ってたので……。」 さすがに急すぎるかとも思ったけど、今日は半日も首藤さんといたから、離れるのが名残惜しい。 「もちろんいいですよ。 迎えに来るので行きたいとこ考えておいてください。」 「わかりました。」 「……はぁ。可愛いが過ぎますね。」 「え?」 「俺が帰るの寂しいって顔とか、名残惜しいから明日の約束取り付けるとことか。 あとさっきのハグも、恥ずかしいと思いつつ、大人しく言うこと聞いちゃうとことか。いろいろと可愛すぎる。」 エスパーかなと思うくらい考えてることがバレてる。 これ聞くとちょっとキモくないか?俺。 「……嫌でしたか。」 「はい?全く。そんなわけがない。 可愛すぎて下心で留められそうにないくらいですよ。 だから帰ろうとしてるんです。手出す前にね。」 「……なるほど。」 度々匂わせてくるから分かっていたけど、俺にそういう気持ちを抱いているという直接的な表現が、嬉しいけど猛烈に恥ずかしい。 「あー、そういう顔しないでください。俺の理性が危ないから。 一線超える前に帰りますね、俺。おやすみなさい。」 そう言ってそそくさと出ていく首藤さん。 けど、出ていく前に戸締りするように念押ししてくるのが、首藤さんらしい。 俺どんな顔してたんだろ。 俺もそういう気持ちが無いわけじゃないし、嫌じゃないから家に入れた。 さっきは急で驚いたけど、次同じことがあれば、としっかり覚悟もしてたのに。

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