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第44話
カフェは少し混雑している様子だったが、意外とすぐに入ることが出来た。
入ってすぐのところに、ショーケースいっぱいのケーキが並んでいる。
ここで注文するシステムのようで、席に案内された後再びここに立っているけど、どれも美味しそうで全然決まらない。
「決まりました?」
「もうちょっと待ってください。」
首藤さんは、ショーケースじゃなくて俺ばかり見ているような気がするけど、自意識過剰だろうか。
決まったのかな。
「どれで悩んでるんですか?」
「これとこれで悩んでます。」
ふたつのケーキを順番に指して説明すると、その片方を首藤さんが指さして言う。
「じゃあ俺こっちにしますね。」
「えっ。」
「そしたらどっちも食べられるじゃないですか。」
「首藤さんが食べたいのでいいんですよ?」
「俺はどれも気になって選べなかったところなので、むしろちょうど良かったです。」
「ほんとに?」
「はい。俺正直者ですよ?」
「それはそうですが。」
「飲み物は何にしますか?」
「ブレンドコーヒーで。」
「わかりました。じゃあ頼みましょうか。」
首藤さんは店員さんに声をかけて、俺の分まで注文してくれた。
「ありがとうございます。」
「いえいえ。」
注文したものは席まで持ってきてくれるようで、案内された席に戻ってくる。
「そういえば首藤さんって、コミュニケーション苦手なのに、接客とかこういう時は全然そんなことないですよね?」
「あぁ。話すことが明確であれば特に問題ないんですが、雑談の類が苦手です。」
「だから初めて話した講義の時も、普通に話してくれたんですね。」
「はい。」
「納得です。
確かに、雑談って仲良くない人とするの、難しいですよね。」
「はい、すごく。
沈黙が続いた時なんかは気まずいですし。」
「わかります。」
「天宮さんもそんなことありますか?」
「そりゃあ、ありますよ。
俺の場合はそんなに人に興味がないので、話題も思いつかないし、初対面の人だと話しかけられたことにしか答えられません。」
「え、ほんとに?そんな感じしなかったですよ。」
「首藤さんとは仲良くなりたいなと思ったので、そこは例外です。」
そこへ店員さんがケーキと飲み物を持ってきてくれた。
俺は早速手を合わせる。
「いただきます!」
ケーキにフォークをさしてすくい上げ、口に入れる。
首藤さんの方を見てみれば、そんな俺をただ見てる首藤さんと目が合う。
「……食べないんですか?」
「あ、食べます。」
「首藤さんって食べるとこよく見てきますよね。」
「美味しそうに食べる天宮さんがあまりに可愛くて、つい。
すみません、見られてると食べづらいですよね。」
「さっきも言ってたけど、焼肉を食べた時も言ってましたね。」
「はい。毎回思うので。」
「けど喫茶店ではそんな事なかったですよね。」
「カウンター内にいるときはよく見てましたよ。
本に夢中で気づいてないようでしたが。」
「見られてたんですね。はずかしい……。」
「あ、本を読んでる天宮さんの真剣な顔も、カッコよくて好きですよ。」
「……もうわかりました。ケーキ食べてください。」
首藤さんのカッコ良さ故か、周囲からの視線を感じて、それも相まって余計恥ずかしい。
どうか、いい大人がこんなとこでイチャイチャしてる、とか思われてませんように。
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