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第45話

「美味しかったですね。」 「はい、とても!」 「また来ましょうね。」 「いいんですか? 首藤さんはそんなにケーキが好きでもないようにみえましたが。」 「ケーキを食べている天宮さんは好きなので。」 「……はい。じゃあまたお願いします。」 「この後どうしますか?他に行きたいところは?」 「ここに来ることばかりで、この後は考えてなかったです。」 「俺はまだ一緒に居たいんですが、いいですか?」 「……もちろん。 じゃあ次は首藤さんの行きたいところに行きましょう。」 「行きたいところか……。」 少し考える素振りを見せるけど、思いついた様子はない。 「ないですか?」 「んー、水族館?」 「それは俺が好きなだけで、首藤さん俺ばっか見てたじゃないですか。」 魚たちは結構流し見されてた記憶が……。 「じゃあ映画?」 「いいですね!何がみたいですか?」 「この前天宮さんが気になるって言ってた、あの洋画の ──」 少し話をしただけで、そんなに興味ある感じでもなかったけど……。 「だから、俺の観たいやつじゃなくて……。 他に観たいのは?それかしたい事とか。」 「天宮さんと同じ空間に居られればそれで。」 「ほんとに?」 「強いていえば、多少のスキンシップが許されたら、なおよしですかね。」 「じゃあ……。」 ちょっと恥ずかしいけど、今唯一出してくれた希望だし、自分から手を差し出してみる。 「いいんですか? 外でこういうの嫌い派かと勝手に思ってました。」 「首藤さんが良ければ、別に誰になんと思われようと構いませんが。」 「やっぱり天宮さんってカッコいいですね。」 「そうですか?」 「はい。」 「ありがとうございます。」 そんなこんなしていると、女の人2人組が小走りでやって来て、目の前で立ち止まる。 ついそっちを見てしまった頃にはもう遅い。声をかけられてしまう。 「すみません。さっきカフェで見かけてひとめぼれしちゃって、まだ近くにいるかもと思って……。」 俺を上目遣いでみながらそう言ってきた少し歳上そうなその人は、恥ずかしそうにしているけど、多少の自信が見え隠れしている。 あのカフェにでかい男2人は、目立ったかもしれない。 そうでなくても首藤さんは眉目秀麗。目をひいてもおかしくない。 だけど他の客の顔なんか見てんなよ。 そしてわざわざ探して声掛けてくんな……。 「それで?」 普段は声をかけられようが別に何とも思わないけど、今は、恋人になった首藤さんと美味しいケーキを食べ、今からどうしようかなと思ってたところ。 そして今、手を繋いだところ! 声をかけられて多少冷たくしてしまっても、こればっかりは許して欲しい。 「この後予定がなかったら、一緒にどこか行きませんか?」 自分ならワンチャンと思っているのか知らないが、そんなことはない。 「この人俺の好きな人なんで邪魔しないでもらっていいですか。」 今まで黙っていた首藤さんが、繋いだ手を見せつけながら、低めのトーンでそういえば、彼女たちは気まずそうな顔をして去っていった。 俺はというと、結構人が通っている道で堂々と好きと言われ、手を繋いでるのも見せつけられ、恥ずかしさと嬉しさとで、脳内はごちゃごちゃだ。 「すみません、勝手に。」 「……本当に。正直にも程があります。」 「なんでそんな可愛い顔してるんですか?」 「可愛い顔……?」 そんな顔はしてないはず。 なんとも言えない顔をしてる自信はあるけど。 「はい、可愛いです。 まあ天宮さんは常に可愛いですが。」 「……どうも。」 首藤さんは恋人には甘々なタイプなようだ。 まあ薄々気づいてはいたけど、ずっとこの調子だと多分心臓1個じゃ足りない。

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