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第46話
手は繋いだまま、結局特に目的地も決めず、ただ歩みを進める。
「天宮さんってやっぱりモテますね。」
「さっきのですか?」
「はい。
つい口を出してしまいました。」
「俺が話に乗ると思いました?」
「いえ。不快ですオーラが出てましたし。」
「まあそうですよね。」
「ただ、天宮さんを不快にさせてるのに腹が立って。
せっかく天宮さんから誘ってくれたデートなのに、嫌な思い出になったら嫌だなって。」
「え、そんな理由ですか?」
「はい。
まあ、カッコよくてひとめぼれする気持ちも十分わかりますが。」
「そんなこと言ってますが、首藤さん、あの人と一緒にいたもうひとりの人に、めちゃくちゃ見られてましたよ。そりゃもう熱っぽい目で。
あれは、あの人首藤さんに惚れてましたね。なんなら俺に声掛けてきた人よりガチでしたよ?」
「天宮さん、イライラしてます?」
「してません。」
「ほんとに?」
「……そりゃあ、見知らぬ人から自分の恋人への好意を感じて気持ち良くはないですよ。まあもうあの人たちと会うこともないと思いますが。
それより、あの時なんで“俺の好きな人”って言ったんですか?恋人って言ってくれたら良かったのに。もしかして、まだ片想いだと思ってますか?」
それを聞いて少し驚いた顔をした後、優しい顔で微笑む。
「いえ、そういうわけではなくて、性的指向を勝手に漏らすのはよくないかと思って。手繋いでるのも、何か言われれば俺が勝手に繋いでることにしようかと。
でも、そんなふうに思ってくれてたのは嬉しいです。次から気をつけますね。」
「俺は首藤さんが好きなだけで、同性愛者かはわからないし、手繋ぐのも俺から提案しました。」
「はい、もちろんわかってます。」
「でもそうやって配慮してくれる優しいところも、いいと思います。」
「ありがとうございます。」
「首藤さんは俺の事が大好きなんですね。
さっきから理由が俺のことばっかり。」
「それはもちろんです。
俺の脳内は天宮さんだらけなので、そうなるのも仕方ないです。」
「俺だらけなんですか?」
「はい。」
「そうなんだ。」
真顔のままではあるけど、頭では俺のことばかり考えてるんだ。
少し緩む頬をおさえながら歩いていると、正面から歩いてくる女の人が、首藤さんを2度見するとその場に立ち止まった。
「首藤くん?」
「はるな先輩。お久しぶりです。」
「久しぶり〜。
首藤くんが誰かと出かけてるの珍しいね?友達?」
「いえ、恋人です。」
「まじか。それはごめん、邪魔しちゃったね。」
「そんなことは。」
「にしても首藤くんは友達ゼロだと思ってたのに、恋人か〜。」
「変ですか?」
さっき言ったことを早くも実行してくれるのは嬉しいけど、首藤さんがはるな先輩と呼ぶ人と親しげに話をしている……!
首藤さんが雑談できるなんて、どういう関係?
しかも名前呼びだし。
先輩って呼んでたから卒業生かな。
すぐ恋人って言ってくれたし疑ってはないけど、純粋に気になる。
「天宮さん、こちら、昨年やたらミスターコンに誘ってきて挙句勝手に応募した先輩です。」
「何その紹介。ひどくない?
どうも、初めまして。首藤くんと同じゼミだったはるなです。」
「初めまして。天宮です。
首藤さんと同じ講義とってました。2年です。」
「天宮くん、めちゃくちゃカッコいいね。
首藤くんと並ぶと、もはや異空間。」
「先輩。あまり見ないでください。惚れられたら困ります。」
首藤さんは繋いでいる手を引っ張って、俺を自分の背に隠すようにする。
「はいはい。そりゃこれだけカッコいいと心配になるよね〜。」
「はい。しかもカッコいいだけではないので余計心配です。」
当たり前のように惚気けてる……。
嬉しいけど、あまり話し込まれるのも嫌だな……。
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