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第50話
「あれ、雨降ってる……。」
首藤さんと別れて、ひとコマだけ講義を受けた。
講義中に降り出したのか、さっきまで晴れていたのに。
そんなに遠くないし、帰ってすぐシャワー浴びたらいいか。
と思っていたが、とても運が悪いことに、今日は点検の日とかで断水らしく、終了予定の時間まで1時間とちょっと。
ひとまず身体を拭いて着替えたけど、体は冷たい。
風邪引きませんように。
なんて俺の願いも虚しく、翌朝38.2℃。
立ち上がれば視界が揺れるし、外出はおそらく不可能。
百合ちゃんに連絡してみよう。
6つ上の姉、百合ちゃん。
父の再婚で向こうの連れ子だった百合ちゃんとは血の繋がりはない。
兄弟が欲しかったらしい百合ちゃんは、俺にとても良くしてくれて、俺もすぐ大好きになった。
比較的近くに住んでいて、今でも時間が合えばたまに会う。
在宅ワークだから〜ってパソコンだけ持って泊まりに来ることもある。
そういう日はだいたい、同棲してる彼氏と喧嘩した時だけど。
“風邪。助けて”
“薬は?”
“ないです”
“1時間以内に行く”
何かあったら絶対すぐ呼べよ精神の百合ちゃんは、いつもとてつもなく頼りになる。
視界がぐるぐるして気持ち悪くて、文字をうつのもしんどかったけど、何とか連絡してそのまま目を閉じた。
多分1時間も経ってない頃。
物音で目が覚めると、家出用に渡している合鍵を使って、百合ちゃんが来てくれていた。
「ごめん、起こした?」
「ううん、大丈夫。
来てくれてありがとう。」
「いーえ。
しんどいと思うけど、まずは何でもいいから少しでも食べて薬飲んで。そして寝て。」
「はい。ありがとう。」
「プリンにする?」
「うん。プリン好き。」
「知ってる。」
百合ちゃんはプリンの蓋を開け、スプーンも用意してくれる。
「はいよ。
じゃあ買ってきたの冷蔵庫入れとくから。
ゼリー、プリン、アイス、スポドリがあります。
あとうどんとかフルーツとかもあるから、食べれそうになったら食べて。」
「俺の好きなのばっかり。」
冷蔵庫に入れてるところをみていると、俺の好きな商品ばかり買ってきてくれている。
「まあね。きいちの好みくらいは把握してますよ。」
「さすが百合ちゃん。」
「そんなカスカスの声で話してないで、食べたなら薬飲んで。はい水と薬。」
「うん。」
昔百合ちゃんがこうやって看病してくれたことがあった。
その時は買ってきてくれたものを差し置いて、プリンが食べたいって言ったのを覚えてる。
しんどいからうどんとか無理、って言ったことも。
唯一わがままを言ってたのが百合ちゃんだった。
「ほんとありがとう。俺百合ちゃん大好き。」
「知ってる知ってる。私もきいち大好きだよ。
ほら寝な。」
「まだ居る?」
「居るよ。
少しだけ仕事していい?タイピング音うるさい?」
「んーん、うるさくない。していいよ。」
「何かあったらすぐ声掛けていいから。」
「うん。」
不定期にカタカタとなるのをききながら、俺は気づけば眠りについていた。
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