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第56話
眩しい……。
うっすらと目を開けると、カーテンの隙間から日が差し込んで、目の前の顔を照らしていた。
「……すど…さん。」
彼は既に起きていて、笑顔で俺の顔を見ていた。
その左手は昨夜のように俺の頭を撫でている。
「おはようございます。
体調は大丈夫ですか?」
熱はすっかり引いていて、頭痛やだるさもない。
「ん……。」
「よかったです。」
安心したように微笑むその顔は朝にしては攻撃力が少々高い。
「も、ちょっ……。」
と寝かせてくれ。
という思いで目を閉じて、無意識に目の前の体に抱きつく。
ちなみに普段はこのポジションは毛布。
その瞬間撫でられていた手がとまる。
俺はなぜかそれが不服で、その手を掴んで自分の頭を撫でさせた。
少しそうすれば再び撫でてくれて、それに満足した俺は再び眠りにつく。
目が覚めたのは1時間ほど経った頃。
「……んー。」
なんだかとても幸せな夢を見ていたような感覚とともに、俺は目を開ける。
「あ、起きました?」
「……はい。」
やばい。俺、首藤さんにめっちゃ抱きついてしまっている……。恥ずかしい……。
「え、離れるんですか?嬉しかったのに。」
「……恥ずかしいので。」
「そういう初心なところも可愛いですね。
先程頭を撫でるのを強要してきたのには驚きましたが。」
「え、俺が?」
「はい。天宮さんが抱きついてきたのに驚いて撫でていた手を止めたら、止めるなとばかりに俺の手を掴んで撫でさせてましたよ。」
「嘘だ……。」
「本当ですよ。それはもうとても可愛かったです。」
「恥ずかしすぎて死ぬ。最悪……。」
さすがに自分の行動が恥ずかしすぎて顔を合わせていられず、反対側を向いた。
そしてそのまま壁の方に寄って、極力首藤さんと距離をとる。
「朝に弱いことは知っていましたが、こういうことであれば大歓迎ですね。」
「もう黙ってください……。」
顔を見られたくないし見れないし、もう壁と一体になる勢いで顔を隠す。
「さっきは壁じゃなくて俺にくっついてくれたのに。」
「それは寝ぼけてて……。」
「寝ぼけてないときは嫌ですか?」
「……嫌とかじゃ……。」
でも寝ぼけてないと恥ずかしくて、自分から抱きつくなんて無理。
「ふふ、すみません。少し意地悪でしたかね。
今度は俺から抱きしめてもいいですか?」
「……はい。」
首藤さんは俺の返事を聞いたあと、後ろからそっと抱きしめてくれる。
うなじのあたりに息がかかって、少し擽ったい。
「きいち。」
すぐそばで名前を呼ばれて、心臓が外に出てしまうんじゃないかってくらいにドキッとする。
「本当にほんっっとうに死ぬほど好きです。
俺からばかりだったから少し無理させてるかなと思ってたんですが、そうじゃないって分かって嬉しかったです。
意地悪言ってすみません。可愛くてつい。」
「……恥ずかしいだけで、こうやって触れられるのも、昨日の……キスも、全部嬉しいです。」
「はぁぁ……。天宮さんは本当に可愛いですね。今すぐ抱きたい。」
「だっ……!?」
「冗談です。嘘じゃないけど。
朝ご飯食べますか?食べられるなら作ります。」
「食べます。
すっかりだるさもなくなったので、多分なんでも食べられます。」
「ご飯とパン、どっちがいいですか?」
「ご飯がいい。玉子焼きと、お味噌汁がいいです。」
「魚は?」
「骨が面倒くさいので……。」
「なるほど。天宮さんらしい理由ですね。
じゃあご要望通りに作りますね。お味噌汁の具に拘りは?」
「ないです、なんでも。」
「わかりました。
あの、天宮さんの家の冷蔵庫には食材が皆無なので、買い物に行ってきてからでもいいですか?近くにスーパーありますよね。」
「一緒に行きます。」
「病み上がりなのでゆっくりしてていいんですよ?」
「……一緒に行きたいので。」
「そこは面倒くさくないんですか?」
「……はい。」
「あー、可愛い。」
首藤さんは噛み締めるようにそう言って、俺の首筋に軽いキスをする。
「あっ。」
くすぐったさに思わず声が出てしまって、慌てて口を塞ぐ。
「……早く行きましょう。このまま二人きりだと襲いかねません。」
「……はい。」
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