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第57話

首藤さんには俺の服を着てもらい、ふたりとも身支度をすませて家を出る。 「手を繋いでもいいですか?」 首藤さんの提案に頷いて、手を繋いで歩くうちに、ふと同棲しているかのような錯覚に陥る。 同じ家から出てきて手を繋いで近くのスーパーに、って、まさにラブラブの同棲カップルそのものではないだろうか。 「なんか同棲してるみたいで楽しいですね。」 首藤さんも同じことを考えていたようで、そう微笑みかけてくる。 「俺も同じこと思ってました。」 「ほんとですか?嬉しいです。 本当に一緒に住みたいですね。」 「そうですね。」 「住みます?一緒に。」 「はい?」 「この辺であれば、実家もバイト先も近いですし、駅までの距離も実家とさほど変わらないし、天宮さんも学校までの距離変わりませんよね。」 「そうですね?」 「俺が就職したら、この辺で一緒に住みませんか。」 「冗談ですか?」 「本気ですが。」 確かに一緒に住めるのは嬉しいけど、いままで考えたこともなかったから、俺自身どうしたいかよく分からない。 「あ、すみません、困らせるつもりはなくて。 天宮さんがその気になったらまた言ってください。」 「はい。」 「あまり深く考えなくていいですからね。 今でも割とすぐに会いに行ける距離ですし、俺はどちらでも、天宮さんに寂しい思いをさせるつもりは無いので。 ただ、今朝みたいに起きて天宮さんがいて、こうやって一緒に買い物行けたら楽しいな〜って思って言っただけで。」 「はい。ありがとうございます。」 「では。買い物しましょう。 もし良ければ、何か作り置きもしておきますか?」 「いいんですか?」 「はい。病み上がりでまたカップ麺生活されるのも心配なので。 嫌いなもの特になかったですよね。」 「はい、基本的には。」 「じゃあ日持ちするようなものをいくつか。」 「そういえば、今日は良かったんですか?学校行かなくても。」 昨日も昼間からうちに居たし、俺が風邪をひいたせいで、首藤さんの勉学の邪魔をしてしまってないだろうか。 「大丈夫ですよ。明日からまた頑張ります。」 「……俺、邪魔になってませんか。」 「なってませんよ。」 「でもいろいろしてもらってばかりだし。」 「したくてしてる事ばかりですよ?」 「でも……。」 「あんまりでもでも言ってると、キスしますよ?」 スーパーの野菜売り場で!? そんなのされたら恥ずかしくて一生この店に来られなくなるし、ここは黙るしかない……。 「……首藤さんって意外と意地悪なこと言いますよね。」 「天宮さんが可愛いので仕方ないんです。」 「……俺、かぼちゃの煮物食べたいです。」 「いいですよ、作りますね。 他に食べたいものは?」 「んー、あっ、この前お店で食べたポテトサラダのサンドイッチ美味しかったです。」 「じゃあポテトサラダも作りましょうか。 他には何かありますか?」 「今思いつくものは特にないですが、きっと首藤さんの作るものならなんでも美味しいと思います。」 喫茶店で頂いたものもすべて美味しかったし、首藤さんがご飯を作ってくれるなんて楽しみすぎる。 「天宮さんは本当に可愛いですね。」 この人の可愛いのツボはいまいち分からないけど、首藤さんがニコニコしているのはなんだか嬉しいので良しとしよう。 俺はただ首藤さんに着いていくだけだったけど、気づけば買い物は終わっていた。

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