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第72話
賑やかな中みんなで食事を楽しんで、今は首藤さんのお母さんと首藤さんが片付けをしてくれている。
手伝おうとしたら、テレビでも観ててと、春夏さんと共にソファに座らされた。
「ねぇ春夏さん。聞きたいことあるんだけど。」
「ん?なになに?」
「首藤さんってたまに口悪いよね?
さっきもちょっと垣間見えてたけど。」
「あー、お兄ちゃん高校生のときちょっとグレてたからかな?」
「え、首藤さんが?」
「うん。うちの両親仲が悪くて。父親が浮気したせいなんだけど。
それで家に帰るのが嫌だからって夜中までどこか行ってることが多かったよ。たまにケガしてきたりして。」
「嘘。想像できない……。」
「まあそのへんぶらぶらするくらいで、誰かとつるんでるってわけではないみたいだったけど、あの見た目で夜中うろうろしてたら喧嘩売られることもあったみたい。」
「……そうなんだ。」
「まっ、それも両親が離婚してしなくなったけどね。」
タイミングが良いのか悪いのか、片付けを終えた首藤さんがやってくる。
「何、俺の悪口?」
「そう。お兄ちゃんが不良だったって話。」
「不良……、まあ似たようなものか。
多少喧嘩はありましたが、それ以外一切何もしてないですからね?犯罪とかないですから。」
「分かってますよ。」
「……俺の事嫌になりました?」
「え、なんでですか?
高校生なら喧嘩くらいしますよ。そんな事で嫌になったりしません。」
「よかった。
じゃあケーキ食べます?」
「食べます!」
「無難に生クリームといちごにしましたが、よかったですか?」
「もちろん。ケーキはなんでも好きです。」
再びダイニングテーブルに座って、ケーキに刃が入れられるのを真剣に見つめる。
「どれがいいですか?」
「これで。」
俺が1番に選んでいいとの事だったので、ほぼ均等ではあると思うけど、いちごが多そうなのを選んだ。
「いただきます。
……美味しいです!」
「よかったです。」
目の前のケーキに手をつけずに、また俺の方ばかりを見ている首藤さん。
もう何度言ってもこれはやめてくれなさそうだ。
「そういえば、なんでふたりは敬語なの?」
首藤さん母の純粋な疑問が投げかけられる。
言われてみれば確かにずっと敬語だ。
「そういえばそうだね。
機会もなかったからなんとなくそのままだったけど。」
「付き合ってるんだし、そろそろ敬語やめてみたら?」
「そうしよっか。ね、きいち。」
急なタメ口に名前呼び……!
なんか距離が近くなった気がして嬉しい。
「……うん。」
たまに敬語が抜けることも名前呼びもあったけど、こうして改まるとなんか新鮮で、くすぐったい感じ。
……そういえば、楽しくて忘れていたけど、ひとつだけ聞きたかったことがあった。
「あの、おふたりは、首藤さんの好きな人が俺だって知って、どう思いましたか。」
俺はまだ、というか、両親とはお互い気を遣いあってるから、首藤さんを紹介できるようになるかわからないけど、親がどう思うのか参考までに聞きたかった。
それに、俺をどう思っているのかも純粋に気になっていた。
「そりゃあもう大興奮よ。ねぇ、春夏。」
「うん!前から先生とお兄ちゃん、いい感じだなぁって思ってたんだよね。
それに、先生がお兄ちゃんになるって嬉しいし!」
「私も天宮くんが息子だったらと思ってたから、そりゃもう大絶賛。
顔よし頭よしで、性格まで良いって聞いてたから。廉と春夏から。」
首藤さんも春夏さんも、俺を過大評価し過ぎでは……?
「男とか、そういうのは……。」
「性別ってオマケみたいなもんじゃない?
例えば、廉の趣味が映画だったところで、親としてはそんなの読書でもなんでも、本人が楽しいなら、幸せならそれでいいなって思ってるから。
それと似た感じかな。
好きな人の性別が男ってだけ。好きならそれでいいじゃん?って思ってるよ。」
「ですよね。」
「ちなみにでいうと、私も天宮くんのことは大好き。
あ、もちろん人としてね。さすがに息子の彼氏をどうこうとかないからね。」
「はい、ありがとうございます。」
分かってはいたけれど、本当に素敵な家族だな。
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