74 / 77

第74話

「いい匂いだったね。 それにまだ身体もいい匂いがする。」 「ね。あとそれもいい匂いする。」 「これ?」 手に持っているボディクリームを見せると首藤さんが頷く。 「春夏さんにお礼言わないと。」 「なんて?」 「え、普通に。いい匂いで気に入った、って。」 「なら良い。 さ、ドライヤーするからここ座って。」 「うん。 ねぇ、なんて言ったらダメだったの?」 「なんだろう。 きいちのエロい姿を連想させること全般?」 「そんな事言わないよ……。」 「確かに。きいちは言わないね。 そういう人だから母さんも、春夏とふたりにしても大丈夫って思ったんだと思うし。 ……一応聞くけど、春夏と何もなかったよね?」 「ないですないです。 大事な妹さんに何かするなんてそんな事。」 「もちろん春夏もだけど、俺はきいちも大事だよ。」 「……うん。」 「はい乾いた。 それ貸して。背中の方俺に塗らせて?」 「うん、ありがとう。」 背中だけ服をあげて、優しい手つきで背中にボディクリームを塗ってくれる。 「これでいいかな?」 「うん。後は届くし大丈夫。ありがとう。」 「どういたしまして。 俺も髪乾かしてそっち行くから待ってて。」 「はーい。」 少しして首藤さんも戻ってきた。 「さっき思い出したんだけど、俺もクリスマスプレゼントあるんだよね。」 ごそごそとバッグを漁った後、A4くらいの包みを持って俺の隣に座る。 「はい、これ。」 「開けていい?」 「うん。」 リボンを解いて包みを開けると、ルームウェアが入っていた。 タオル地のような、とても手触りが良いやつ。 「俺この生地好き。」 「よかった。 この家のタオル結構いいやつだったし、好きかなって思って。」 「よく見てるね。」 「きいちのことだからね。」 「嬉しい。ありがとう。」 「どういたしまして。」 「俺もプレゼント用意してるからちょっと待ってて。」 今日か明日のいいタイミングで渡そうと用意していた紙袋を持って、さっきまで座っていた位置に戻り、中の箱だけ取り出して、首藤さんに手渡す。 「開けてもいい?」 その問いかけに頷けば、嬉しそうに梱包を解いていく。 「ネクタイ?と、ネクタイピン。」 「うん。首藤さんの会社、スーツだって言ってたから。 一応店員さんに聞いて汎用性が高いものを選んだんだけど……。」 「嬉しい。毎日使う。」 「喜んでくれてよかった。」 自分で渡しておいてなんだけど、来年はもう同じ大学に居ないことを改めて実感してしまう。 新しい環境で、また新しい人との出会いがあるんだろう。 この間街中であったはるな先輩のように、俺の知らないところで知らない人との交流が……。 「きいち?」 「はいっ。」 不意に呼ばれてつい敬語が出る。 そんな俺を見て優しい顔で笑って、俺に両手を差し伸べる。 「おいで。」 俺は顔にでも出てるんだろうかと思うくらい、こういうことを考えている時はよく見透かされる。 まだ付き合って1ヶ月半くらいでこれなら、1年経つ頃には俺の思ってること全部見透かされてそう。

ともだちにシェアしよう!