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マラカイトとトパーズ

覚えているのは。 自分を見つめるドライバーの目が恐怖に満ちていたことだった。 いや、オレのがこわいんですけど そう黄一(キイチ)は思った。 だってこれから轢かれるのは自分なのだ。 そしてトラックに身体がぶつかり、タイヤの下に巻き込まれ潰されるのを感じた。 しかたねぇな キイチはそう思うしかなかった。 自分を撥ねたドライバーが苦しまないことを祈った。 これはしかたないんだ。 誰も悪く無いんだ そう言ってやりたかった。 内臓が潰され飛び出して、骨が砕かれ、頭が割られるのがわかった。 そこで、記憶は途切れていた。 目を覚ます。 あれは夢だったのかと思った。 でもそこは見覚えのない部屋の天井で。 キイチは頭を振った。 身体が重い。 だが頭蓋骨は割れてないし、身体も潰されてはいない。 身体を少し起こす。 大きなベッドの上にいた。 ベッドしかない殺風景だが、広い部屋だ。 見回したところで、ここがどこか全く見当かつかない。 何より、感覚がおかしい。 こんなに身体を動かすのに違和感があっただろうか。 指が肌がどこかに触れる度、こんなに肌の触感を意識したことがあっただろうか。 それに目が映し出す映像が、見えるということが、こんなに脳に情報が溢れるように感じられることがあっただろうか。 何かがおかしい。 感覚が鋭敏になりすきている。 これは何だ? キイチは起ようとしたのをやめてベッドにくたりと寝そぺる。 違和感が酷い。 身体から脳か受け取る情報量が多すぎる、みたいなそんな感覚。 こんなの。 初めてだ。 キイチは目を閉じて混乱が収まるのを待つ。 オレは。 オレは。 トラックに轢かれて、その後どうなったんだろう それとも、トラックに轢かれたことが、夢か何かだったのか? だが。 肉が潰れて骨が碎けるあの感覚を、キイチは克明に覚えている。 あの痛みも苦しみも。 でも。 今は。 待つ。 キイチは待った。 次に起こることを。 それが何かを説明してくれるだろう。 そして。 それは起こった。 ドアが開いた。 「目覚めたかい?オレの【トパーズ】」 のんびりした低い声がした。 焦ることのない声は、ゆったりとしていた。 穏やかな波のような声だった。 まだ目を開けるのは辛かった。 情報が暴力のように脳に流れ込んでくるからだ。 でも、その声だけは心地良く脳まで届いた。 だから目を閉じたまま、待った。 その声が与えてくれる説明を。 「初めまして、【トパーズ】。俺はクジャク。お前のマスターになる。今日からファイナルラウンドを目指して頑張ろうな」 その声が呑気に伝える情報は、1ミリも理解出来ないものだった。 役に立たねぇ そう思った。 これが、クジャクとの出会いだった。

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