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マラカイトとトパーズ 2

「まだ寝てろ、出来たてだからな。身体の調子は慣れるまで時間かかかる。何、明日位には慣れる。まあ、操作にはもう少しかかると思うが、それは俺が訓練してやる」 クジャク、と名乗った男の声は穏やかで、心地良いが、何を言ってるのかまったく分からないので、キイチはイライラした。 「事故はどうなったんだ」 キイチは目を閉じたままたずねた。 目から流れてくる情報をまだ処理出来ないので、目を開けてられないのだ。 目を閉じていても、耳や肌からの情報だけで溺れそうなのだ。 そして、鼻からもこんなにも情報を得ていたことを今更知り、驚いていた。 何より聞かないといけないのは、「お前は誰だ」なんだなのだが、何故か聞いても無駄なような気もしていた。 「ああ。そうだな。事故か。うん。綺麗に潰れていたよ。気の毒だった」 クジャクは本当に気の毒そうに言っていて、その意味が分からない。 何が綺麗に潰れていたんだ。 そして何故オレはここにいる。 キイチが知りたい情報はまだまったく無い。 「あんたは死んだんだ。うん、そこから言うべきなんだろうな。いつも理解できなくて、ここでいつもみんな混乱するからまず言っておく」 クジャクはいきなり直球を投げてきた。 豪送球すぎて、言葉がない。 オレが死んだ? 死んだだと? だけどそれは記憶と合致する。 死ぬ記憶はあるのだから。 でも、死んだならここにいるオレは? ここは天国か? 「でも、俺はあんたが死ぬのはもったいないと思って、オレの【トパーズ】にした」 クジャクの言葉はやはり分からないモノで。 キイチはまともな説明が欲しくて、目を開けた。 話をしているクジャクを見ようと。 ベッドの傍らからクジャクはキイチを見下ろしていた。 クジャクは大きな男だった。 褐色の肌、黒い髪。 フットボールの選手と言われても納得しただろう。 美しく逞しい身体つきをしていた。 波打つ長い黒髪は後ろで束ねられていて、綺麗に整った顔はその身体と共に彫刻のようだった。 それだけなら、美しい、大きな、逞しい男、だと思っただけだっただろう。 外国人のスポーツ選手かな、と。 でもそうは思わなかった。 恐怖しかなかった。 自分をニコニコ笑いながら見下ろすクジャクの両目は。 その2つの瞳は。 人間のモノではなかった。 それは石だった。 緑や青や白、複雑な色が混ざりあい模様を描く。 綺麗に磨かれた石が瞳の代わりにその目に埋め込まれている。 黒い瞳孔が申し訳程度にあるけれど、その目は光を受け入れる器官ではない、ただの石が瞳の代わりに埋め込まれているだけなのがわかった。 義眼? そう思った。 それならわかる。 世の中にはこういう義眼を使う奴もいるのかもしれない。 気味が悪いが。 だが、その瞳が動いたから、これは【本物】なのだと悟って悲鳴をあげそうになった。 この世界に石の瞳を持つ【人間】などいない。 「この目が怖いか?そうだな。人間達はこの目を見れば怖がる」 クジャクは申し訳なさように言った。 クジャクの目が【孔雀石】、そうマラカイトと呼ばれる石であることにキイチは気付いた。 鉱物マニアの誰かが、色々教えてくれて、そうだ、それを教えてくれたのは誰だ?誰だった? キイチは混乱している。 「だがお前も【トパーズ】なんだし、怖がる必要はないと思うぞ」 クジャクは言った。 クジャクがさっきから自分のことをトパーズと呼んでいることには気づいていた。 それは何だ? 宝石の目を持つ男は困ったような顔をした。 気を使っているのだとわかる。 何に対して? 「気をわるくしないで欲しいんだが。お前は死んだから俺はお前を人間じゃ無いモノにした。死ぬよりは良いかと思うんだよね。同意を取らなかったことは反省している」 クジャクは頭をかきながら、言いにくそうに言った。 言葉の意味がわからないのではなく、今度は届かなかった。 「はぁ?」 キイチはそうとしか言えなかった。 「お前、もう人間じゃないの。【無機物】なんだ。だから俺と一緒にファイナルステージを目指そう!!きっと楽しめるはずだ!!」 クジャクに明るく言われてもまったく意味が分からなかった。 人間ジャナイ????? 死んだ????? 思わず飛び起きた。 クラクラしたし、脳みそが煮えくり返っていたが、それどころではなかった。 とにかく居場所を確認したくて、ベッドから降りてカーテンすらない部屋の窓から外を見ようとした。 外はもう暗くなっていて、窓ガラスは鏡のようにキイチを映し出す。 キイチは窓ガラスに写った自分の姿を見て悲鳴をあげた。 細身で小柄だが、俊敏そうな身体つきの、若い男。 それはたしかに自分の姿だった。 気の強いネコ見たいな顔と言われる顔も自分のモノだった。 でも。 でも。 その目は。 瞳に黄色の石が嵌め込まれていた。 それがトパーズなのが分かった。 宝石の目。 この自分が人間じゃないことを一瞬でキイチは理解した。 石の瞳にはそれだけの説得力があつた。 「いや、死ぬよりはいいでしょ?」 クジャクが焦ったように言った。 慌てたようにキイチに駆け寄りながら。 「んなわけあるかい!!」 キイチは怒鳴った。 思わず隣りに来たクジャクに向かって回し蹴りを放っていた。 そして。 文字通りクジャクが吹き飛んだ。 それこそ部屋の反対側の壁に向かって。 50キロちょっとのキイチの蹴りが、100キロ近いだろうクジャクの身体を広い部屋の反対側まで飛ばしていた。 あれ? キイチは怒ることも忘れてそれに驚いた。 説明がいる。 これには説明が。 キイチはそう思った

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