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マラカイトとトパーズ4
跳んでみろ、と言われた。
ピョン、とキイチは跳んでみたが別に何も。
普通に跳ねただけだった。
キイチとクジャクはマンションの屋上にいた。
タワマンとはいかないが、それなりに高いマンションで、こんな街中だから、そこそこ高級マンションなのはわかった。
クジャクが説明よりはまずは体験した方が早い、と屋上に連れてきたのだ。
クジャクは当たり前のように屋上の鍵を持っていた。
まだ身体の違和感はあったが動けるようにはなって来ていたから、クジャクに言われるままにキイチはついていった。
誰よりも現状を把握したいのはキイチなのだから。
「思い切り飛ぶんだ。それこそ飛ぶつもりでね」
クジャクが言った。
屋上には申し訳程度の柵はあったが、他には何もない。
かなり広い屋上で、ここが広いマンションなのだとわかった。
駐車場にする予定があったのか、屋上には白線がコンクリートの床にいくつも並行に描いてあるだけだった。
そこから見る景色は高さをかんじさせた。
街中だからまたそこから高層ビルを見上げはするが、それでもかなり高い。
そして、日が暮れた街にビル達が光を放っているのがここからは見える。
こうして見ればこの街も美しい、と言えた。
商業ビルのネオンも鮮やかな光を放つ。
その光の中でキイチは跳んだ。
バカバカしいと思ったが、それこそ飛ぶつもりで。
子供の頃特撮ヒーローのように飛べると信じたように。
ダンっ
コンクリートを思い切り蹴った。
その衝撃音の大きさにキイチは最初は驚いた。
そしてその次に自分がどこにいるのかに驚いた。
屋上からさらに10メートルは高い場所にいたからだ。
そしてまださらに高い所へ向かってた。
下を見れば10階はあるマンションの屋上から跳んだから、街が見下ろせた
夜の街へ急ぐ人達、街から家へ向かう人達、いくつかの線が交わる列車の線路、商業ビル、ビルの上にある観覧車。
それを宙からみていた。
自分の周りに気流の流れがあって、それが飛んでいることを実感させた。
そして、自分を見上げるクジャクがいる屋上も見えた。
「なんだよ、これ!!!!」
キイチは怒鳴った。
商業ビルの観覧車に乗っていた男と目があった。
男は驚いて目を剥き出しにしていたが、男以上にキイチが驚いていた。
そして、物体は上に上がるエネルギーが尽きると落ちていくのが物理法則で。
物凄いスピードで落ちていくその落下感にキイチは悲鳴を上げた。
上がるよりも。
落ちる方か怖い。
そして、物体は放物線を描いて落ちていく。
これも物理法則だ。
そう飛び上がった場所にそのまま落ちるわけではなく、飛び上がった場所から離れた場所に落ちるものだ。
つまり。
「頼む頼む頼む頼む!!!」
キイチは泣いて懇願した。
物凄いスピードで落ちて行きながら。
どうやらこのままだと屋上から離れた場所に落ちる、すなわち遥か下にある道路に落ちると思ったからだ。
だがなんとか。
屋上の塀のない場所、ギリギリにキイチは着地した
ドガッ
飛び上がった時以上の衝撃音がしたが、キイチの脚はそれに耐えていたし、なんとか転ぶことなく、屋上の縁でふみとどまっていた。
キイチは泣いてた。
怖くて。
レールもベルトもコースター自体すらないジェットコースターみたいだったからだ。
それは飛び降り自殺の体験に似ていた。
「こんな感じで君は素晴らしい能力を手に入れたわけだ」
クジャクがのんびり言った。
「素晴らしい、能力、じゃねぇよ!!!空から地面にめり込むところだったじゃねぇか!!」
キイチは怒鳴る。
「大丈夫だよ。死なないよ。特殊な刃物以外にはその身体は耐久性がある。銃で撃たれても死なない」
クジャクが保証した。
そうなのだろう。
いまではキイチもそれを納得できる。
あの高さから落ちて何ともないのはおかしいし、大体あの高さまで跳ぶ力に脚が耐えられるのもおかしい。
「オレをこんなモンにしてどうしたいんだ!!」
キイチは混乱しながら怒鳴った。
コレにどんな意味かある?
なんのために生き返らせ、こんな力を与えた?
「俺と君とでバトルに参加するんだ。そして、ファイナルステージを目指す」
あ、なんかそんなこと言ってたなと思った。
だか、クジャクの言葉はまだまだ説明が必要なモノだった。
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