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バトル
この世界には【無機物】と呼ばれる人ではないモノ達がいて、競いあっているのだ、とクジャクは言った。
自分は無機物で、今ではキイチも無機物になったのだと。
「バトルして、相手を倒すんだ。全ての相手を負かしたならファイナルステージにいける」
クジャクは無邪気にいった。
「なんだそれは!!行きたくねぇよ!!」
キイチは怒る。
ワケの分からないものにされて生き返ってしまっていた。
だが大人しく従ってやるつもりはない。
「戦いたくなくても相手はやってくるし、それに負けたなら死ぬことになるよ」
クジャクが言った。
ふざけんな、とキイチは思った。
せっかく生き返ったのにまた死にたくなどはない。
だがそれは。
死にたくないということは。
「オレも相手を殺さないといけないわけ?」
聞いてはみる。
「そう。バトルに入ったならソイツを殺すまで相手は来るからね」
クジャクは頷く。
言ってる言葉の意味が分かくなるくらいあっさりと。
「オレに殺せと?」
キイチはゾッとした。
格闘技はしてきたが、それは殺すためじゃない。
殺しなんて問題外だ。
「いや、そもそも相手は人間じゃない。大体人間だった頃の価値観を持ってきても今さら無意味だ。もうお前も人間じゃないし。無機物は互いに殺し合うものだ。人間だって、そういう要素はあるだろう。我々ほど大っぴらにやってないだけで。人間同士で殺し合っているじゃないか」
クジャクは不思議そうに言う。
「戦ってどうするんだ?なんのために殺しあう?」
頭をかかえながら聞く。
聞いてはみても、もうマトモな回答など期待してなかった。
価値観が全く違うのだ。
「何でだろつな?あんまり考えたことはないな。【いつも】人間だった奴はそこを気にするなぁ。人間だって食う為に他の生き物を殺してるだろ。まあ、そんな感じだ」
クジャクの説明に全く納得はいかない。
殺し合うためだけに殺すでは全く。
「何より、全員倒せばファイナルステージに行ける。ファイナルステージに行くのみんな目指してる」
クジャクはまた言った。
ファイナルステージ。
何度かこの言葉をクジャクか口にしているのは気になっていた
「それは何だ?」
キイチは尋ねる。
これこそが求めている答えかもしれない。
殺し合う理由。
「ファイナルステージに行けば、望みを叶えて貰える。何でもだ」
クジャクの言葉に驚く。
こんな馬鹿げた話があるもんか。
「【誰】が叶えてくれるんだ?いや、【何】というべきか?」
キイチは聞いてみる。
「【神】だ。俺たちを創った」
恭しくクジャクが言った。
「んなアホな」
キイチは一瞬で否定する。
そんなモノはいない。
「俺たち【無機物】がいるんだ。【神】だっているさ」
クジャクの言葉はある意味、尤もだと、キイチは考えた。
本物かどうかはともかく、コイツらが存在する以上、【何か】はいるのかもしれない。
本当の神かどうかは別として。
少なくとも、キイチが思う神ではない何かが。
ソイツが無機物達を殺し合わせている、とキイチは理解した。
「望みは何でも叶うのか?」
キイチは聞く。
「今までは叶ってきたな」
奇妙なことをクジャクは言う。
「全員殺さないとファイナルステージに行けないのになんでそれを知ってるんだ。それに何度もあったかのように言うんだな、殺されるんだろ。結果までわからないはずだ」
キイチは指摘する。
「いや、言いにくいんたが、俺たちディフェンスはゲームが終了してまた再開したら生き返る。お前達オフェンスはその度に新しくなるというか、ゲームがスタートする度に俺達が新しい人間を選んで無機物にする」
クジャクはすまなさそうに言った。
つまり。
このゲームでキイチが死ねぱキイチは生き返らないが、クジャクはまたゲームが始まればいきかえるというのだ。
ディフェンス?
オフェンス?
なんだそれは。
「お前ら何回位、いやどれくらい前からこのゲームしてんだ?」
キイチは聞いた。
「人間がまだ居なかったころからかな。【オフェンス】役の【宝石】は最初の頃は人間じゃなかった。最初はそれぞれが色々な生き物を使ってたんだが、統一しようということになって人間を無機物にして、【宝石】としてスカウトするようになった」
クジャクは言った。
100年単位位は覚悟していたが桁が違った。
キイチはさすがに愕然とした
。
「【宝石】が人間じゃなかった頃も、あれはあれで良いものだったよ。巨型の恐竜や大型動物が戦い合う姿は美しかった」
うっとりとそれを思い出しながらクジャクが言った。
ゾッとした。
それが本当だとわかったからだ。
化け物達が、地球上の生き物を使って互いを殺し合わせてきたのだ。
大昔から。
化け物達は、自分達はその戦いで死んでもまた生き返り、また殺し合いを続ける。
それを繰り返してきたのだ。
古代には宝石の目をした恐竜達を殺し合わせてきたのだ。
いや、待て。
「恐竜がいた時代に宝石とかはないだろ」
石好きの誰かから聞いた知識をキイチはおもいだす。
宝石は、時代を得てつくられる。
それこそ、恐竜達の化石がオパールになったように。
宝石にはその時代が存在しなければ作られないものもある。
琥珀はそれ自体が化石だと誰かは言ってた。
誰が?
誰が言ってた?
思い出せない。
キイチは頭痛がした。
「その理屈からすれば俺たちもその頃から人間の姿をしているのもおかしいだろ。人間が存在しなかった頃から、人間に似た姿をしてるんだから。俺たちは時間を超えてる。俺たちにとっても宝石もそう。俺たちには過去も未来もない。バトルだけがある」
クジャクの言葉がやけに響いた。
「俺たち【始まり】からの無機物は【ディフェンス】。指示を出し、【オフェンス】を敵から守るために知力を尽くす。それこそ何でもしてな。そしてお前のように無機物にされた人間は【オフェンス】そして【宝石】と呼んでる。【宝石】は敵の【宝石】を倒す。【宝石】が死ねば【ディフェンス】の無機物も死ぬ。そうすればそのバトルは終了だ」
クジャクの言葉に納得したのは。
凄まじくくだらないモノ、不死の化け物共の暇つぶしに巻き込まれてしまった、ということだけだった。
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