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バトル 3

殺し合いをしてね、じゃないと殺されるから。 そう言われたところで、そんなに簡単に心が決まるわけではなく、とにかく沢山得てしまった情報をかかえてキイチはベッドの上でゴロゴロのたうち回っていた。 消化しきれないのだ。 死んで生き返っただけでももういっぱいいっぱいなのに。 キイチは最初に目覚めた部屋にクジャクともどっていた。 何も無いただベッドだけがある部屋に。 カーテンすらない。 だが光の差し込み方から、外からの光は遮断して、中の様子は見えなくなるガラスなんだろうと思った。 キイチはガソリンスタンドで働いていたからそういうフィルムを貼った車があることも知ってる。 ガソリンスタンド。 ガソリンスタンドで働いていた。 あれ? あれ? 何か。 何か。 キイチは記憶に違和感を覚えた。 それについて考えようとした時、ベッドの横にクジャクが当たり前のようにゴロリと寝転がってきたから、思考が中断された。 デカいベッドなのに、クジャクが寝そべった途端狭くなった。 クジャクがデカすぎるのだ。 キイチも一応それでも、気にしてはいるが160センチ8ミリ位はあるのにクジャクは190センチを超えたくさらいはある。 腕だってバカ太い 胸周りも厚いし、おそらく腹だってバキバキだろう。 なのにこいつは戦わないで、キイチに戦わせるつもりなのだ。 身長が高いクセに。 チビチビと言われて言われる度に拳で黙らせてきた幼い日々からキイチはデカいヤツが嫌いなのだ。 空手に邁進したのもこの小柄な身体があったからこそで。 ん? なんか なんか キイチはまた記憶に違和感を感じたが、それはクジャクが嬉しそうにキイチを抱きしめてきたので吹き飛んだ。 「俺の【トパーズ】」 クジャクはとても嬉しそうに言った。 緑のマラカイトグリーンの石の目が輝き、子供が本当に欲しかったもの与えられた時のように笑う。 美しくでも、男らしい顔が子供のような微笑みで満たされるのはたしかに目を奪われるモノだったが、でも、抱きしめられてキイチは混乱した。 「可愛いなぁ。俺の。俺の」 クジャクは大きな腕で、子犬でも抱き込むかのようにキイチを抱きしめていた。 キイチの思考が止まる。 何だこれは。 意味がわからない。 「元気が良くて可愛くて。こんなに可愛いなんて予想以上だ」 クジャクは確かにキイチの頭のてっぺんにキスをした。 背中を撫でる手。 それがある種の意図を持っているのは確かで。 いや、確かか? こいつ人を犬か何かだと思っている可能性があるんじゃ? キイチはできるだけ良い方向に考えようとした。 今日はもう混乱が過ぎた。 お腹いっぱいなのだ 「可愛い俺の【トパーズ】」 クジャクの声が、やけに濡れすぎてないか? 硬直しながらキイチは思う。 クジャクの大きな手がキイチのTシャツを捲りあげ、いきなり胸をつかみあげたから、確実にその指がキイチの乳首を摘んでいたから、もう確定で。 「何すんだこのボケェ!!!」 キイチは迷うことなく、クジャクの肋に向かって肘を打ち下ろしていた。 ぐがあっ 潰れたカエルのような声と、間違いなく骨の折れる音。 肋を抑えてベッドから転がり落ちたのはクジャクだった。

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