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Vs オパール 2

「核ってなんだよ・・・」 キイチが青ざめる 「宝石の身体の中に核がある、その核を潰されたなら宝石は死んでそのマスターの無機物も死ぬ」 クジャクは基本中の基本のルールを、声と直接脳へと使ってキイチへ送る。 「本当に何も教えていなかったのですね。良かった。無用な争いは嫌いです。楽に殺してあげれる」 白は言った。 心から喜んでいるのがわかる。 「苦しませはしません、そんなには」 白は腕を振り上げた。 キイチは焦る。 「待て!!待て!!待ってくれよ・・・」 じたばた暴れるが、白の身体から切り離した腕はキイチの腕を掴んで宙にぶら下げたまま離さない。 「覚悟なんか決めなくてもいいです。その前に死ぬ方が楽ですよ」 白は優しく言った。 「1つだけ1つだけ」 キイチがあまりに哀れっぽく聞くものだから、白は思わず止まってしまった。 「なんです?早く殺さないと僕がマスターにお仕置されてしまうんですが」 白は首を傾げる。 ガラスと違って白は「良い子」だ。 それはどんな無機物も認めている。 ガラスは狡猾卑怯なゲスだか、白は違う。 だが、白はガラスに絶対服従だ。 白はそう作られている。 白の存在自体がルールギリギリなのだか、今はそれを持ち出している場合ではなかった。 クジャクも必死で考える。 そしてキイチの考えを読む。 キイチが死ねばクジャクも死ぬ、とりあえずは、だから殺させるわけはいかない。 「オレはオレの核とやらを潰されない限りは死なないってことだよな?」 キイチは言った。 数少ないルール。 最低限のルールを知らない相手を殺してはいけない。 それが発動し、白はルールに従いキイチに説明した。 「はい。核を潰されない限り、宝石は何度も再生することが可能性です」 説明終了。 これで殺せる。 白は速やかにできるだけ楽にキイチを殺すために手を振りかぶった。 刃物のように切り刻むために。 だが。 「それが分かれば十分だ!!」 キイチは叫び自分の腕を自分で引きちぎった。 白に掴まれた方の手を、自分自身で。 メキメキという音と吹き出す血。 その血を目に浴びて白は一瞬目を閉じた。 引きちぎられた腕だけを宙に残しキイチは床へと落ちた、というより着地した そして、ふたたび、窓から外へと飛び出した。 目を開けた白は驚いた様子だった。 だがすぐ、ちぎれたキイチの腕を掴んだまま宙に浮かんでいた白の腕は、キイチの腕を投げ捨てて、窓から飛び出しキイチを追う。 もう一本の腕も白から離れて窓の外へとキイチを追う。 落下していくキイチを再び2翼の追尾ミサイルのように白の腕が追っていく。 「また、同じことです」 白は長い髪を振る。 窓から下を見下ろしながら。 離れた腕をコントロールしてるのだ。 クジャクはキイチの視界に切りかえた。 キイチは自分を追ってくる、白の腕をちゃんと捉えていた。 腕がキイチを掴もうとした瞬間キイチは壁を蹴って方向を変え、腕をすり抜ける。 そして、自分の方へ向かってくるもう一本の手首を掴んで宙に浮く。 キイチにそんなことをされるとは思っていなかった白は驚いた様子だったが、自分の腕を掴んでぶら下がっているキイチを振り落とそうと動きまわり、もう一本の腕も再びキイチを捕まえようとする。 キイチは脚を使って襲ってくる腕を払い、蹴り、しのぐ。 その間も振り落とそうと動き回るする白の腕をキイチはしっかり掴んで離さない。 地上から沢山の人達がそれを見上げていた。 飛び回る腕に捕まってふりまわされている人間と、その人間に襲い掛かるもう一本の腕。 シュールすぎる光景だったから、誰もが立ち止まり見上げてた。 そして、マンションの窓からあんぐりと口を開けてそれをみている住民達も、クジャクはキイチの目から確認できた。 一人の女はちょうど自分の部屋の窓すぐ外で、二本の腕と戦っているキイチを見ていた。 そしてまだみているものを信じていないのがわかった。 信じられるはずがない。 その時だった。 キイチは白の腕にぶらさがったままからだを振り反動をつけた、そして勢いをつけ白の腕から手を離した。 キイチは飛ぶ。 そして、住人の女の見ている前で、その部屋窓を破って飛び込んでいく。 思った通り、白の腕は窓の外から部屋に入ったキイチを追ってこない。 「よくやったキイチ、とにかく逃げろ」 クジャクは言った。 キイチの脳内に直接。 「うるせぇ、命令すんな」 キイチが答えるのをキイチの聴覚を使ってクジャクは確認した。 「白は自分の腕を切り離して、それを自在に飛ばしてコントロールできる。でも、腕は腕だ。目があるわけじゃない。白は自分の見えてる場所でしか腕をコントロールできないはずだ。白から見えない場所へ逃げろ」 そうキイチに脳内から指示したのはクジャクだ。 そして、自分の腕をちぎって逃げろ、とも。 また生えるから、と。 指示はしたが、それをやれるかはキイチ次第で、でもキイチは初めての戦いで、訓練もしていないのにそれをしてみせた。 クジャクは感動していた。 素晴らしい宝石だ。 こんな素晴らしい宝石は知らない。 白は首を傾げて考えこんでいた。 いや、白も脳内で離れた場所にいるガラスと話し合って居るのだろう。 窓から白の腕だけが戻ってきた。 そして白の身体に戻る。 「仕切り直します」 白はクジャクに言った。 丁寧に頭を下げて。 やはりガラスには勿体ない良い子だ。 「そう?またねー」 クジャクは手を振った。 「貴方のパートナーは変わってる。あんな宝石は初めてです」 白は言った。 古参の白が言うならそうだろう。 「だよね」 クジャクは笑った。 そこが良かったのだ。 キイチは最高だ。

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