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記憶
「何で普通にしてんだよ」
キイチには納得いかなかった。
街中でロケットパンチと戦ってたのだ。
しかも空中で。
大騒ぎになるはずだった。
沢山の人が見てた。
だが、クジャクは何もなかったように過ごしていた。
何でだ?
いいのか?
バレても。
この部屋の窓からオレは飛び出したんだぞ、とキイチは思う。
このマンションの下の階の部屋の窓ガラスもぶち破って不法侵入したし。
何よりまたあの白い少年が攻撃してくるんじゃないのか?
「問題ない問題ない。まず、俺たちは人間の記憶に残らないし、スマホで撮影していたしても、映像に俺たちは映らない。上手く全ては修正される。例え俺たちが人間を何人殺そうと、それは人間達の方がなんとか理由をつけてくれる、それに白、【トパーズ】の方は当分問題ないだろう。大体二月くらいで、ガラスは白を作り直すから数週間は大丈夫」
クジャクはテレビをつけた。
それはマンションの前の映像だった。
突然割れたガラスが降ってきたことがニュースになっていた。
ネットでも割れたガラスが降ってくる動画が拡散されている。
白やキイチが破ったガラスだ。
突風?
何かの飛来物?
色々言ってた。
が、誰も、白い少年とか、飛んでる2つの腕とか、それと戦う青年とかについては何も言ってなかった。
「この部屋に誰が住んでるかも、みんな忘れるし、気にしない。俺たちは人間にとっては存在していないようかモノだ。会って別れたら1時間もすれば全て忘れるし、どんな記録にも残らない」
クジャクは言った。
それにキイチは恐怖を感じた。
「じゃあ、これから先、人間と知り合っても、人間は誰一人オレを覚えてないのか?」
それは。
この世界に存在していないのとおなじじゃないのか?
「そうだ。だからオレ達はパートナーが大切なんだよキイチ」
クジャクにそれを伝えたかったのだという程の熱意でキイチはそう言われた。
「俺達を覚えていられるのは敵と、俺達だけなんだ」
クジャクの言葉はキイチにショックを与えた。
存在さえ忘れられる。
いなかったことになる。
そんな。
そしてそれと同時に自分の記憶についての違和感に気付いてしまう。
キイチは。
確かに自分がキイチだということは知っている。
だけど。
他は?
キイチは誰かに鉱物や宝石についての話を聞いた。
誰かが熱心にそれについての話を聞かせてくれた。
それは思い出せるのに。
それが誰なのかわからない。
「クジャク。お前、オレの記憶にも何かしてないか?」
キイチはもう分かっているのに尋ねる。
キイチには記憶がない。
というより、自分の記憶にアクセスできない。
モヤがかかっている感じだ。
クジャクは初めて困ったような顔をした。
だから。
記憶が操作されているのがわかった。
「・・・それ、これから先生きていくのに必要かなぁ?」
クジャクは言った。
キイチの答えは決まっていた。
いるに決まっている、と。
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