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記憶 2
「返せ!!殴るぞ!!」
キイチは怒る。
「もう殴ってるじゃないか」
頭を抑えてクジャクが言う。
その通り。
キイチはもう殴っていた。
クジャクに関しては全く良心の呵責がない。
コイツは知らない間、いや死んでる間にキイチの処女を奪い、キイチの記憶を奪ったのだ。
「返せ。それはオレのもんだ。オレの記憶を返せ!!」
キイチは言った。
クジャクはため息をつく。
「それが本当に必要かな?・・・そうは思わないんだけど。苦しむことになるかもよ?」
クジャクは首を傾げながら言う。
妙なことを。
キイチはおもう。
記憶は必要だ。
自分が誰であるかを知るために。
「説明するね。何で記憶を消したか。それがキイチを苦しめるからだよ。何故かと言うと、キイチが人間だった時に大切な人がいたとするだろ?俺達の敵はそれを狙ってくるぞ。キイチを追い詰めるために。キイチが大切な人を思い出せないのなら、その人達とキイチを結び付けられることはないからその人達も安全だ。キイチもその人達を傷つけられて苦しむことはない」
意外とマトモな理由だった。
本当にキイチのためではあったらしい。
「敵はそこまでするのか」
キイチは青ざめる。
まだ敵を殺す覚悟もないのに、相手はそこまでしてくると教えられているわけで。
「するね。何でも有りだからね。キイチは生きていた時に知り合った人間と関わりあいにならない方がいい。特にガラスは何だってする。アイツは卑劣で残忍で最低だ。誰にも愛されないから、自分を愛する生命体を創って自分を愛させている変態だ」
クジャクは顔を顰めた。
白い男の子のバートナー、それがガラスだという。
そんな最低な男と組まされているのか、そう思うと気の毒になる。
だが、とにかく。
キイチには記憶が欲しい。
「記憶がもどったら会いたくなるよ。会ったら危険に相手を巻き込むよ」
クジャクの忠告も一理ある。
だけど。
「それはオレのモノだ。記憶を返せ」
キイチは言った。
他人が自分にとって何がいいのかを決める権利などない。
それはキイチが決めることだ。
「オレのことはオレが決める」
キイチの言葉にクジャクはやれやれと言ったように肩を竦めた。
でも。
クジャクの石の光しかない目が、キイチの目を見つめる。
美しいが石の瞳だ。
マラカイト、クジャク石といわれる宝石の、曲線を描く模様のある美しいグリーンの瞳が、キイチのトパーズの瞳を見つめる。
透明さも何もない無機質な石の目に恐怖を覚えた。
だが、美しい。
「俺は。キイチか苦しむのはみたくないよ」
クジャクの言葉は悲しげに聞こえた。
本当に悲しむように。
「それはオレのモノだ」
でもキイチは言ったから。
クジャクの目が深く光って。
それがキイチの中へと入っていった。
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