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記憶 3
「黄一、キイチ、これはなんだと思う?」
父親が河原で拾った石をキイチに手渡してくる。
それは黒い中に赤い粒粒が入った石で。
キイチはその赤い部分を撫でた。
「ガーネットが入ってる?」
確かめるように聞く。
父親の笑顔が大きくなる。
「そうだ。ガーネットはどうやって出来る?」
父親の質問にキイチは直ぐに思い出す。
「マグマが固まってできる!!」
キイチの答えに父親がさらに笑ってくれたから、キイチは嬉しくて仕方ない。
キイチは父親が大好きだった。
空手の師範で、車の整備士である父親を尊敬していた。
父親は経営する整備工場が休みの日にはこうやって、キイチと妹を街から離れた自然のあるところに連れて行ってくれた。
父親は石が好きな人で、石についておしえてくれた。
「取るに足らない石なんてないんだよ。雑草なんて草がないように、石にだって名前があって、ここに在るまでの歴史がちゃんとある」
父親はそうおしえてくれた。
「ガーネットは宝石でしょ?」
妹がはしゃぐ。
「そうだね。でも、宝石になるためには磨かれなければならないよ。見つけ出して、磨く必要がある。でも、宝石じゃないからその石に意味がないわけじゃない。その石に何を見るかはその人間次第だからね。それにお前が1番好きな石は宝石より、シーグラスだろ?」
父親は妹と手を繋ぐ。
石を拾って1つだけ持って帰っていいことになってる。
それをキイチと妹はコレクションしてる。
妹の1番のお気に入りは、海で拾った波が削ったガラスだ。
それは石じゃない、とキイチは文句を言うが、父親は良いんだよと笑う。
妹はそのシーグラスに海の音を見るのだと言っていて、下らないと決めつけるキイチを父親は嗜める。
「見つけ出したものに自分が何をみるのかが、石を拾う楽しさだからね」
そう。
そういうこと。
キイチは水晶の結晶が生えている珍しい石とかも持ってるけど、キイチの1番のお気に入りは滑らかなクリーム色と赤い色のしまのある石だ。
父親がおしえてくれた通り削って磨いて、滑らかに光るそれを大切にしてる。
キイチも石が好きだ。
自分で見つける石が。
「ただの石なんてないよ。長い時間をかけて、ここにある。素晴らしいと思わないか?」
父親は巨石のある場所にも連れて行ってくれて、そう言った。
古代、文字もない時代から、そしてそのもっと古くからそこに在った巨石を。
人々はそこに神をみて、その石を信仰したのだ、とおしえてくれた。
古代の人が神をそこに見たことをキイチは理解する。
巨大な石は時間と自然そのものだった。
「キイチ。在るということはそれだけで意味があることだよ。全ての存在は歴史なんだ。全てのものにはそのものだけの時間を積み重ねてここにある。そう考えたなら、この世界は美しくないか?」
父親の言葉の意味がどれほどわかっていたのかわからない。
でも。
父親はそういう人だった。
全ての石を価値あるものにしたように、とんな人間にも価値あるものとして接した。
取るに足らない石も人もいない。
それが父親の哲学で。
キイチはそんな父親が好きだった。
「お父さん」
キイチは呟いた。
思い出が蘇ってきた。
忘れるわけにはいかない記憶。
だけど、思い出したと同時に、感じていた違和感の意味も分かってきた。
蘇ってから感じ続けてきた、おかしな感じ。
この世界は知ってる世界じゃない、そんな記憶との違和感。
キイチは目を開けて、複雑な顔をしているクジャクに向かって怒鳴った。
「おい、今はいつだ?何年の何月何日だ?!」
キイチの言葉に、クジャクは少し口篭り。
でも言った。
キイチは言葉もなく固まった。
それは。
キイチが生きていた時より40年後の時間だった。
違和感の正体。
キイチは。
40年後に生き返っていたのだ。
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