27 / 39

追跡 2

キイチの顔は渋い。 クジャクの提案を受け入れざるを得なかったからだ。 それに対してクジャクはご機嫌だ。 限界ギリギリまで機嫌のボリュームを上げている。 鼻歌交じりで隣りを歩かれ、蹴り飛ばしてもまだ上機嫌なのがよけいにキイチの気に触る。 コイツ。 イラつく。 まあ死体になってた自分を犯した相手に、気持ち良く接しろと言われても難しい。 それのお陰で生き返ったのだとしても。 しかも生き返ったところで40年たってる。 死んで40年だ。 クジャクに言わせると死体の損傷を補い、そして、生き返らせる状態にするのにそれくらい必要だったらし い。 「生きてる人間を宝石にするならそんなにかからなかったんだけどね」 クジャクはそう言った。 無機物達は気に入った人間とセックスすることで、その人間を宝石という駒にすることができるらしい。 パートナーとかオフェンス等と言っているが、自分達のするゲームの駒でしかない。 モンスター同士を対戦させるゲームのモンスターに人間を変えてしまうのだ。 しかも育成することでレベルアップさせる所までゲームっぽい。 そんなことの何もかもが気に入らない。 そこにクジャクの軽薄さが拍車をかける。 コイツイラつく、というのがキイチのクジャクに対する感情だ。 ただ、キイチが死んだこと自体にはクジャクに罪はない。 キイチが車に轢かれたのはキイチのせいだ。 誰のせいでもない。 そして、生き返ったことについても色々思うところはあるのだが、死んでいたら何も思えなかった、とにかく生きているからこそ、というのはあるので、その辺にもクジャクを責められないところはある。 死体レイプは許さないが。 そして今、キイチは敵である、無機物達と宝石達以外には、出会った人間にすぐに忘れされれてしまうので、実質関係を築けるのがクジャクしかいないという地獄。 なので。 クジャクにイラつきながらも、クジャクを拒否しきれないというのが、キイチのやり切れ無さを加速させて、余計にクジャクにイラつくという・・・。 でも。 とにかく。 キイチは今は家族に会いたかった。 父や母や妹に。 40年。 まだ両親は生きているだろうか? 妹は? キイチの気持ちは焦る。 だが、自分を見張っているというガラスの追跡を撒かなければならなかった。 家族をガラスから守らないといけない。 どれがガラスの目なのか。 虫? 鳥? 人のカタチをとってることもあるらしい。 意志もなく、姿をどんどん変える、クジャクの【目】。 どこでどう見張られているのか分からないのだ。 ガラスの能力は生命体を創り出すこと。 意志のある生命体は白だけらしいが。 真っ白で綺麗な少年を思い出す。 オパールの瞳をしていた。 ガラスの宝石。 「今はガラスにバラバラにされて再生中だろうな。ガラスは定期的に白をバラバラにするから」 とクジャクが教えてくれた。 何で自分の駒をバラバラに? そう思ったが、理由を聞いてその狂いっぷりにゾッとした。 「ガラスは何にも知らない少年を犯すのが好きだから。セックスに慣れてきたらその身体を嫌って壊しちゃう。そして新しく作り直すんだよ」 クジャクは困ったように言う。 「ドクズじゃねぇか!!」 キイチは思わず言った ドン引きする。 「お前は死体愛好家で、そのガラスとやらは狂った処女厨かよ!!無機物は変態なのか?」 無機物連中最悪だろ。 キイチは思った。 「無機物だからというかぁ・・・」 クジャクがくちごもる。 そのキイチの嫌悪をクジャクは何故か否定しきれなかったのが怖い。 無機物ってこんなのばかりかよ、キイチは流石に引く。 「俺は違うから!!俺は死体愛好家じゃないから!!ホント!!」 クジャクが必死て言ったがキイチは信用してない。 わざわざ死体とやって生き返らせるなんて、オカシイ。 「俺はね、キイチだから。キイチだったからだよ!!」 なんか喚いてたけど、そこからはうるさい黙れと殴って黙らせている。 「ガラスは今も見張ってんだろうな」 キイチは隣りを歩くクジャクに聞く。 キイチの肩を抱きたかったが、蹴られて拒否され、しょんぼりしていたクジャクはキイチに話し掛けられて、明らかに顔を綻ばせる。 「いると思うよ。残念ながらどうやって見てんのかわかんないけどね」 クジャクは笑顔で答える。 キイチに話し掛けられるとクジャクは構ってもらえた犬のように大はしゃぎする。 そして、それが、キイチにはウザイ。 だが。 今はクジャクが必要だ。 「じゃあ、始めるよ」 クジャクは言った。 「そうだな」 キイチは頷く。 クジャクを撒いて。 家族に会う。

ともだちにシェアしよう!