31 / 39
関係性 3
「いいの?」
クジャクはオドオドと言う。
デカい身体をモジモジさせて。
イラつく。
「オレが良いって言ったんだ。二言はねぇ」
キイチは唸るように言う。
「・・・そう」
クジャクは深い声で言った。
その目が笑っていなかったか?
その口元が隠しきれない笑みを浮かべていなかったか?
確認する前にキイチは抱きしめられていた。
だからクジャクの顔はもう見えない。
見えるのはクジャクの服だ。
その向こうに厚い胸板がある。
クジャクの身体は大きくて。
小柄なキイチでは大人と子供みたいで。
誰かの肉体に包まれるのは子供の頃以来で。
その感触に何故か安堵してしまった。
「待て、風呂とか」
これから始まることに、覚悟はしたが怯えてもいたキイチが時間を稼ごうとすると、クジャクは低いでも、はっきりとした声で言った。
ダメ。
そして強く抱きしめられる。
ああ。
拒否はしない。
これは必要なのだ。
家族に会うために。
でも。
誰ともそんなに近くに居たことがなかったから。
子供の頃、父や母に抱きしめられたのともそれは違っていたから。
戸惑っていた。
死体だった時に犯されたことは覚えてない。
生き返ってからのも覚えてない。
キイチには生まれて初めての性体験とも言える。
この年まで、女の子とキスしたことすらなかったのだ。
「キイチ・・・震えてる」
低く言われて、カッとなる。
「震えてねぇ」
その声はちゃんと出たし、ムカつく感じも出せたと思う。
「大丈夫。怖いことなんてしない」
背中をやさしく撫でられた。
ゾワッとした。
だが。
覚悟は決まってる。
「目を閉じて」
言われた。
どうすればいいのかなんて何1つわからないから、言われるがままに目を閉じた。
わらった気配がした。
だがそれは小馬鹿にした感じではなかったから許してやった。
唇に暖かい柔らかいモノが触れた。
柔らかい。
暖かい。
そっと押し付けられて離れる。
そしてまた、優しく触れる。
唇だとわかった。
男らしい分厚い唇なのだとわかってても、それは柔らかで。
そんなには。
そう
嫌じゃなかった。
触れては離れる。
触れては離れる。
こんなに優しく誰かに触られたことなんてなかった、と知ってしまった。
髪を優しく撫でられ、頬や目の上にも唇は落ちていく。
女の子がキスしてくれるなら、こんな風に優しくしてくれるのだろうか。
ふと思った。
自分がキスする夢想はしたことがあったけれど、キスされることは考えたことがなかった。
「ダメ。俺のことだけ考えて」
低い深い声が耳元で囁く。
優しくキスされるだけだったから、覚悟をしていただけにホッとしたせいか、その声に安心してしまったのは事実だ。
「キイチの嫌がることなんてしない・・・」
優しくキスを落としながら囁かれた。
目を閉じているから見えないが、クジャクの姿は、姿だけなら、一級品だ。
女の子なら、こんなに優しくキスされ囁かれたなら、夢見心地になるんだろう。
キイチはそう思った。
キイチにはそれは意味がなくても。
でも。
確かに。
なんでこんなに優しく触れられるんだろう。
キイチは驚く。
優しいキス。
その言葉の意味を知る。
キイチが人間のままだったなら、いつかは女の子とこんなキスをしたのだろうか。
キイチは軽く唇を啄まれるのも許した。
優しく触れられることが。
心地良いと。
生まれて初めて知った瞬間だった。
ともだちにシェアしよう!