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帰宅 2

「みゆこ、オレだ。お兄ちゃんだ!!」 キイチは言った。 まだ高校生だったみゆこは50過ぎの女性になっていた。 妹があの頃はサボりがちだった稽古を真面目にやってきたのはわかる。 構えに隙がなく、おそらく、キイチより遥かに経験がある。 あれほど稽古嫌いだったみゆこが、ここまで鍛えあげてきたなんて。 それに。 手が汚れる仕事だと父親の仕事を嫌がっていたみゆこがバイクの整備改造を仕事にしてるなんて。 何があった? いやあった。 兄が消えたのだ。 ある日突然。 「お兄ちゃんは40年前にいなくなった!!きっと死んでる!!お前は【なんのために】そんな姿であたしの前に現れた?! 」 年老いた妹の叫びには隠しきれない痛みがあった。 兄が突然消えて死んだと思ったから、あんなに甘えたでワガママだった女の子が強くなろうとし、父親の仕事を手伝ってもいたのだ。 あんなにすぐ泣いて。 ワガママで。 でも可愛いかった妹が。 キイチは泣いた。 キイチは確かにあの時死んで。 それは家族には悲しみで苦しみだったのだとわかったから 「ごめん、みゆこ、ごめん」 キイチは子供のように泣いた。 悲しませてしまった。 今キイチが家族を思うように、家族もキイチを思ってくれていたのに。 そんなに。 そんなに。 お前がそんなにまで。 悲しませてしまったのだな。 泣き出したキイチに、年老いた妹は戸惑った。 ゆっくりと構えを解き、帽子を脱いだ。 その顔は。 間違いなく妹だった。 生意気ででも甘えたところのあった表情はどこにもなく、強い意志を通してきた人間独特の表情をした女がそこにいたけれど、でも、それは。 妹の目で。 歳月が鍛えたあげた強い視線を持つ目が今は迷ったようにキイチを見つめている。 おそらく、今のこの妹はこんな表情をそう簡単にすることはないはずだ。 でも。 それだけ迷っているのだ。 「【本当に】お兄ちゃんなの?」 妹は言った。 キイチは頷く。 頷くしかない。 「お父さんは?お母さんは?」 キイチはそれでも聞く。 「お母さんは死んだよ。3年前」 妹は言った。 キイチは泣き崩れる。 分かってた。 その可能性の方が高かった。 でも。 キイチには40年ではなく数日なのだ。 「お父さんは?お父さんは?」 キイチはそれでも聞く。 「・・・お父さんは生きてる」 妹が言ったから。 キイチは顔を上げた。 お父さん。 お父さん。 キイチは父親に会いたかった。 会いたかった。 どうしても。 妹の目は。 でも何故、どうしてそんなに複雑な感情を湛えているのだろう。

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